第2章 2人の娘「「ねえ、パパ、誰この子?」」

2-1

 ヴィヒレア連合王国アルボリ地方。

 今日はここで12~15歳の全人種が参加する魔法戦闘大会少年・少女の部が開催されていた。

 決勝戦、プラチナブロンドのヘアカラーの少女が攻撃を続け、相手の少女はひたすら逃げ回る一方的な試合展開になった。

 プラチナブロンドの少女は補修形跡が著しいスティックで、逃げ回る少女に狙いを定め衝撃波を放つ。

 もう一方の少女は衝撃波にあたり場外に飛ばされた。

 見計らって審判が旗をあげる。


「勝負あり!」


 この大会の優勝は、プラチナブロンドの少女に決定した。


「ごめん負けちゃった」

「なによ2位でもすごいじゃないの」


 負けた少女は両親に泣きながら駆け寄った。

 プラチナブロンドの少女はそれを羨ましそうに見つめる。

 両親は忙しく、今日も来れないことは分かっていた。

 だが寂しかった。


「また、あの子よ」

「バレないようにズルしてるらしいよ」

「私も聞いた。早く証拠見つけて欲しいわ」


 参加した子たち陰口が声に耳に入ってきた。

 聞こえるように大きい声で言っている。

 ズルなど一度もしたことがないのに。

 

 

 表彰式が終わり控室にある自分の収納箱を開けた。

 箱を開けると強烈な悪臭が鼻を突く。

 「……っ」

 思わずあげそうになった声を、寸でのところで飲み込んだ。

 中には、小さなドラゴンの死骸が入っていた。

 死骸はずたずたに引き裂かれていて、血や内臓が散らばり様々な魔道具に付着している。

 一緒に箱に入れていた魔導書に目をやった。

 魔導書はビリビリに破られ、「死ね」などと落書きされていた。

 作成中のタリスマンも、真っ二つに割られている。

 

「…………」


 必死に平気なふりをして、小さなドラゴンの死骸をゴミ箱に捨てに行った。

 ゴミ箱に向かう途中で、他の参加者たちのヒソヒソ話が耳に入ってくる。


「あいつ家ってすっごい金持ちなんだよな」

「ああそうだぜ。だから、どんな事でも特別扱いしないとヒステリックおこすらしいぜ」


 そんなことは一度だってしたことがない。

 むしろ両親に迷惑をかけないように、いつも色んな人に気を使っている。


「あと自分より魔法上手い奴をイジメて、やめさせたりとかするんだろ?」

「妹は自分より魔法の才能があるから、目を潰すために特に徹底的にいじめてるらしいわよ」


 逆だ。友だちだと思っていた子たちに、最近はこんなことをされている。

 妹をいじめたことも一度もない。


「マジかよ。親はどうしてなにも言わねえんだ?」

「いつも一生懸命言ってるみたいよ。でも全く聞く耳を持たないんですって」

「アイツの親は金も持ってるだけじゃなくて、人格者で有名だからな」

「ったく親の気持ちをちゃんと分かれってんだよ」




表彰状とトロフィーを抱えて少女は家につく。

母は幼い妹につきっきりで家を空けられないので、家にいる。

父も仕事が終わって、もう家に帰ってきたようだった。


「ただいま! お父さん今日ワタシ、地方の魔法戦闘大会で……」

「また自慢話か。最低だな」



「ママ、ワタシ今日、地方の戦闘魔法大会で……」

「興味ないわ」


 少女が呆然とするなか、リビングから父の喜ぶ声が聞こえてきた。


「おい! セレナがついに葉っぱを浮かせたぞ!」


「ええ! 本当に!?」


 母は嬉しそうにリビングに向かう。


「えい」


 リビングでは、妹が初歩の魔法に挑戦中だった。

 妹は年齢に相応しくないであろう高価なステッキを必死に振りながら、葉っぱを浮遊させようと必死だ。

 しかし、葉っぱは少しだけ浮いてすぐに地面に落ちた。

 いくら幼い妹でも魔法能力が高い少女たちの種族では、信じられないくらい下手くそなレベルだった。


「あ~でも惜しいぞ」

「もう少し練習すれば大丈夫よ」


 自分の功績や手柄ばかり自慢するからいけないのだ。

 魔法が苦手な妹だからこそ、姉としてキチンと魔法の使い方を教えてあげなければならない。

 そうすれば両親も自分を少しは見てくれるかも知れない。


「セレナ、お姉ちゃんが教えて……」

「その必要はない」

「部屋に言ってなさい」


 父と母は嫌悪するように顔を歪めて、少女の提案を拒絶した。

 少女はトロフィーと表彰をもって自分の部屋に向かう。

 部屋に虚しく並べられたそれらを見ながら少女は涙する。


「どうして……」


 涙が止まらない少女はベッドに顔をうずめる。

 これは何度目だろうか。

 魔法の大会のあとはいつもこうだ。


「ヴィオレ」


 ドア越しに、自分の名を呼ぶ母の声が聞こえた。


「再来週、お父さんのお仕事の都合に合わせて王都を旅行することになったから。あなたも準備しておきなさい」


 母は言い終わるとすぐに立ち去ったようだ。

 冷淡で事務的な口調だ。

 しかし、ヴィオレは嬉しかった。

 家族旅行に自分が連れていってもらった記憶など幼いころ以外にはない。

 ヴィオレは胸に希望を抱いて、準備を始めた。


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