ライナス ザ キッド ~荒野の銃弾~

アサシン工房

前日譚 一匹狼のアウトロー

第1話 一匹狼のアウトロー

 時は199X年。世界各地で戦争が行われ、間もなく終戦を迎えようとしていた。

 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。


「おい、見ろよ。女がいるぞ」

「すげぇ綺麗な髪だ。こいつは間違いなく上玉だぜ!」

「早いとこ捕まえて奴隷商人に売ってボロ儲けしようぜ!」


 大柄な無法者の男三人が一人の女を取り囲んでいた。

 女は布切れを被っていて表情は見えないが、隙間からは長く美しい金髪がはみ出ている。


「クックック……掛かったな!」

「――!?」


 女は布切れを投げ捨て、隠し持っていた拳銃を両手に構えた。その姿は女ではなく、十代半ばほどの年齢の少年だ。

 金髪を肩まで伸ばしており、青く美しい瞳を持つ美少年だが、その表情と眼光からは残忍で冷酷な性格が見てとれる。


「なんだ!? 男のガキだとぉ!?」

「てめぇらみたいなゲス野郎でも俺に食料を持ってきてくれるんだ。感謝するぜ」


 少年は両手に構えた二丁の拳銃で男二人へ向けて発砲し、銃弾は着弾と同時に爆発を起こした。

 被弾した男二人は爆発の衝撃で胴体の一部が砕け散り、絶命と同時にその場に倒れ込む。


「このガキ、なんて物騒な兵器を持ってやがるんだ……」

 

 生き残った男は怯えながら少年を見つめている。少年は冷酷な表情で男の顔面へ銃口を向けた。


「おい、おっさん。死にたくなければ俺の質問に答えろ。マティアス・マッカーサーという男を知っているか?」

「し、知らねぇ! 誰だよ、そいつは!?」

「そうか。ならてめぇに用は無ぇ。死ね!」


 少年は男の顔面へ向けて発砲、男は顔面を爆破され仰向けに倒れた。

 少年は仕留めた無法者たちの持ち物を物色し、食料や金目の物をかっさらっていく。


「俺は兄貴を見つけるまでは……人から奪ってでも、泥水をすすってでも生き延びてやる!」


 ――彼の名はライナス・マッカーサー。

 かつては裕福な家庭で幼少期を過ごしたが、戦争に巻き込まれて両親を失った後、悪党に拉致されてしまった。

 その後、自分を拉致した悪党を殺害して自宅に戻ったものの、既に兄の姿は無かった。

 なぜなら兄もまた失踪した弟を探しに旅立ってしまったからだ。

 ライナスは生き別れの兄を探し求めて旅をしてきたが、荒廃した世界の中で次第に心が荒んでいった彼は、略奪や殺人を重ねて生きてきた。

 

 家に帰宅したライナスは先ほど手に入れた戦利品を机の上に並べた。

 この家はかつて無法地帯にいる悪党が使っていた小屋だったが、ライナスは悪党を殺害して住居を乗っ取ったのだ。


「ふぅ~獲物を狩る気分は最高だな。俺が開発した弾さえあれば怖いものなんて無いぜ。製造コストがちょっと痛いがな」


 ライナスが無法者を仕留める時に使用した弾丸は、彼の手によって着弾と同時に爆発するように作られていたのだ。

 彼の作った弾丸は並の人間を一撃で葬るほどの威力を持つが、製造に必要な材料はやや高価で簡単には手に入らない。その為、弾数が少ないという弱点がある。

 ライナスはこの日手に入れた品物を換金し生活の足しにする為、町へ移動することにした。

 

 ライナスが家を出てしばらくした後、目当ての町へたどり着いた。

 あまり治安が良い町とは言えないが、無法者たちで溢れかえっている荒野の中で生き抜いてきたライナスにとっては天国のような場所である。

 ライナスは質屋へ向かい、店主と交渉を始める。


「おっさん、これを買い取ってくれ。外にいる悪党どもから奪ってきたんだ」

「おお~これは珍しい! 無法者相手とやり合うとはなかなかの少年だな。ほれ、受け取れ」

「こりゃ大量じゃねーか! おっさん、ありがとうな!」

「おう、また珍しいものを持って来てくれよ」


 予想以上の売り上げにライナスは満面の笑みを浮かべながら去っていった。


「こんだけありゃ当分は生活に困らないだろう。今日は久々に町で食事でもするか」


 無法地帯で弱肉強食の世界に身を置いていた彼にとって、町での食事はとても贅沢なものだ。

 ライナスが自分好みの飲食店を探しながら歩き回っていると、白衣を着た白髪の老人がすれ違いざまによろめきながらライナスにぶつかってきた。


「おっと、すまんな。少年」

「俺は大丈夫だ。爺さん、気にしなくて良いぜ」


 ご機嫌なライナスは気にすること無く去っていった。

 その様子を見送っていた白衣の老人に、ボディーガードと思わしき大柄な男が話しかける。


「オズワルド様、大丈夫ですか? 足元にお気をつけて歩いて下さい」

「心配無用だ。さあ、行くぞ」


 老人と大男は何事もなく去っていった。

 

 一方、ライナスは活き活きとした表情でレストランへ入り、食事を満喫していた。

 このレストランは高級ステーキ専門店で、男性の行きつけだと評判の店だ。

 評判通り、店内は全く女っ気の無いむさ苦しい空気が漂うが、ライナスにとってそんなことはどうでも良かった。


「めっちゃ美味ぇ! こんな料理を毎日食べられるようになれたら良いのになぁ~」


 山盛りの料理を満足げに完食したライナス。

 食事を終えた彼は会計を済ませようとするが、そこで財布を失くしていることに気づく。何者かによって見事にすられていたのだ。


「すまねぇ、財布を落としてしまった。明日には払いに戻るから、それまで待ってくれ」


 焦った表情で店主に頭を下げるライナス。


「……あぁ、もちろん構いませんよ。せっかくなので当店特製アイスティーをもう一杯サービス致しましょうか?」

「おお! ありがたく頂くよ!」


 やけに気前の良い店主を気にかけることもなく、アイスティーを口にするライナス。

 しかし、その瞬間ライナスはバタンと床に崩れ落ちて気を失ってしまった。

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