第44話 王族の皆様はいい人でした
使用人がゆっくりドアを開けてくれた。ブラック様と一緒に中に入ると
「ようこそ!ユリアちゃん!」
美しい真っ赤な髪をした女性に、思いっきり抱きしめられたのだ。この方は、ブラック様のお姉様で王太子妃殿下だ。どうやらかなり歓迎されているという事は一瞬で分かったが…力が強すぎて、苦しい…
「姉上、なんてことをするのですか?ユリアはまだ体調が戻っていないのですよ。ユリアを絞め殺すつもりですか。すぐに離れて下さい」
隣にいたブラック様が引き離してくれて事なきを得たが、死ぬかと思ったわ…て、死にかけている場合ではない。
「王太子妃殿下、お初にお目にかかります。ユリアと申します。私に治癒魔法を掛けていただいたとお伺いしました。本当にありがとうございました」
いつもの様に笑顔で挨拶をする。
「そんな事は気にしなくてもいいのよ。それにしても、あなたの笑顔、素敵ね。ブラックと婚約したと聞いたわ。もうあなたは私の義妹なのだから、私の事はお義姉様と呼んで。それよりも、ブラックったら酷いのよ。何度ユリアちゃんに会いたいと言っても、今日まで会わせてくれなかったのだから。本当に薄情よね」
そう言ってプリプリ怒っている。私の知っている王太子妃殿下は、いつも天使の様な微笑を浮かべている大人しい女性だったが…どうやらそうではない様だ。
ふとお義姉様の後ろを見ると、王太子殿下と陛下がこちらに近づいて来る姿が目に入る。
「ユリア嬢、今回の件、私の判断ミスにより伯爵家から君を助け出すのが遅れてしまい、本当に申し訳なかった」
「国王として私にも謝罪させてくれ。君の両親が亡くなった時、疑惑の念があったにもかかわらず、調査をしなかった。その上、君がこんな目に合っていただなんて…国王として貴族の闇を把握できていなかった事、本当に恥ずかしく思う。すまなかった」
なぜか王太子殿下と陛下にも頭を下げられたのだ。
「頭をお上げください。私は今こうやって生きておりますし、何より今はとても幸せに暮らさせていただいておりますので」
必死に王太子殿下と陛下に訴えた。
「本当に家の男どもがごめんなさいね。うちはクリーンちゃんで持っている様なものなのよ。本当にクリーンちゃんが嫁いできてくれてから、王家も随分賑やかになったし。ユリア嬢、私とも仲良くして頂戴ね」
そう言ってほほ笑んでいるのは、王妃様だ。皆私にとても好意的に接ししてくれている。さらに
「あなたがブラックの婚約者?」
「髪が真っ白なのね。珍しいわ」
金色の髪の男の子と、赤い髪の女の子が話しかけてきたのだ。なんて可愛らしいのかしら?お2人は確か、王太子殿下とお義姉様のお子様で、ライズ殿下とクリミア殿下よね。
「お初にお目にかかります。ライズ殿下、クリミア殿下。はい、私はブラック様の婚約者の、ユリアと申します。少し魔力が不足している為、髪が白くなっております。どうか私とも、仲良くしてくださいね」
殿下たちと同じ目線に立ち、笑顔で挨拶を行う。すると
「可愛い笑顔ね。それじゃあ一緒に遊びましょう」
「僕もユリアと遊びたい。ユリア、僕のお部屋に案内してあげる。こっちに来て」
「ずるいわ、ライズお兄様。ユリアお姉様、私のお部屋で人形遊びをしましょう。こっちよ」
ライズ殿下とクリミア殿下がそれぞれ私の手を握って、部屋から出ていこうとしている。温かくて小さな手。なんて可愛いのかしら。つい笑みがこぼれる。
「2人とも、ユリアから離れて下さい!ユリアは2人と遊ぶために来た訳ではないのだから」
私たちの前に立ちはだかったのは、ブラック様だ。
「ブラックお兄様のケチ!」
「ブラック、独り占めは良くないよ。ユリアは僕たちと遊びたいと言ったのを、聞いていなかったのかい?」
「ユリアはそんな事は言っていませんよ。それからはっきり言っておきますが、ユリアは俺の婚約者です。間違ってもユリアに好意なんて抱かないでくださいよ」
なぜかまだ幼いライズ殿下に、怖い顔で酷い事を言い放ったブラック様。さすがにライズ殿下が可哀そうだわ。
「ブラック様、まだ幼いライズ殿下に、その様な酷いお言葉をかけるのはお止めください。お可哀そうに、大丈夫ですか?ライズ殿下」
うつむくライズ殿下に声を掛けた。すると、ギュッと抱き着いて来たのだ。なんて可愛いのかしら?
「ユリアは優しいね。それに柔らかくていい匂いがする」
スリスリとすり寄って来るライズ殿下。可愛い、可愛すぎる。ただ、そんなライズ殿下をすかさず引き離すのは、ブラック様だ。いくら何でも大人げなさすぎるわ。
「2人ともいい加減にしなさい。ユリアちゃん、ごめんなさいね。どうやら私の周りの男たちは、何と言うか…ブラックもライズはまだ5歳なのよ。あまり虐めないであげて。ライズも、ユリアちゃんはまだ体調が戻っていないの。さあ、こっちにいらっしゃい」
お義姉様がライズ殿下を抱きかかえたのだ。ただ…なぜかライズ殿下はお義姉様から逃げ出そうともがいている。
その隙に私の元に来ようとしていたクリミア殿下を、すかさず王太子殿下が抱きかかえた。どうやらお2人にも、気に入ってもらえた様だ。
こんな私に好意的に接してくれる王族の方たち。サンディオ公爵家の方たちといい、王族の方たちといい、高貴な身分の方たちは本当にいい人ばかりね。
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