第40話 相変わらずブラック様はお優しいです

翌日、目が覚めるとやはり立派な天井が。そしてなぜか不安そうな顔のブラック様と目があった。


「おはよう、ユリア。よかった、目を覚ましたのだね」


ブラック様が、心底ほっとした表情を浮かべている。もしかして、私が目覚めないかもと心配していたのかしら?確かに今の私は、相変わらず危険な状態ではあるが…


「ブラック様、おはようございます。ご心配をおかけしてごめんなさい。でも私は、まだしばらくは大丈夫ですわ。自分で何となく余生は分かるのです。それに昨日よりも、明らかに体が楽ですし」


薬や特製ドリンクのお陰なのか、昨日に比べると少し体が楽になった。


「それは良かったよ。昨日は話すことも辛そうだったけれど、今日は普通に話しが出来ているね。それじゃあ、食事にしよう。ユリアはベッドに座ったままでいいからね」


既にメイドたちが私とブラック様の食事を準備してくれていた。今日は随分体の調子もいいし、お昼からは自分で食堂に行くようにしよう。それから、体も動かしていかないと。


早速特製ドリンクを頂いた後、昨日と同様、食べやすい食事を出してくれた。そして今日も、ブラック様が食べさせてくれる。なんだかお姫様になった気分ね。


食後はお医者様がいらして、診察を受けた。


「昨日に比べると、随分と元気そうですね。ですが、無理はお止めください。あなた様は今、かなり魔力が減っているのですから」


そう言われた。無理何てするつもりはないのだが…


診察後、再びベッドに寝かされた。


「ブラック様、貴族学院に行かなくてもいいのですか?」


ずっと私の傍にいてくれるブラック様に問いかける。通常なら今日は貴族学院がある日だ。


「今休んでいるのだよ。ユリアが心配だから、しばらくは休むつもりでいるよ」


「まあ、私の為にですか?私は大丈夫ですので、どうか学院に行ってください」


私の為に休んで頂くだなんて、申し訳ない。


「俺がユリアの傍にいたいんだ。それに学院に行ったところで、何も手に付かないよ。ユリアが元気になって一緒に学院に通える様になったら、また通うよ」


私が元気になったらか…そもそも私の家は断罪され、既に貴族でも何でもなくなっている。そんな私は、貴族学院に通えないはずだが…そう思いつつも、とりあえず笑顔を向けておいた。


「ブラック様、今日は天気がいいので、少しお散歩をしてもよろしいですか?それから、食事は食堂で頂きますわ。わざわざ運んでいただくのは、申し訳ないので」


「散歩はいいけれど、食事はここに運ぶよ。医者も言っていただろう?無理は良くないって」


「私は大丈夫ですわ。今までもこれ以上体調が悪くても、学院にも通っておりましたし、食事の準備もしておりました。私は居候の身ですし、あまり皆様の手を煩わせたくはないのです」


「ユリアはずっと、伯爵家で虐げられていたものね…」


そう言って急に私を抱きしめるブラック様。私、何かいけない事を言ったかしら?よく変わらず、首をコテンと傾けた。


「ユリアは本当に分かりやすい性格をしているね。それじゃあ散歩に行こうか?ついでに公爵家の中庭を案内するよ。さあ、おいで」


ブラック様が私を抱きかかえたのだ。学院に通っている時も、移動はブラック様がこうやって抱っこして運んでくれていたわね。なんだか懐かしいわ。


中庭に着くと、ブラック様が下ろしてくれた。さすが公爵家の中庭、かなり立派だ。色とりどりの花が咲いているし、小川まで流れている。いたるところに噴水もあるし。


つい興奮して、あちこち動き回った。ただ…さすがに疲れたわ。


ハァハァと息切れを起こしてしまった。


「ユリア、無理をしたからだよ。さあ、こっちにおいで。部屋に戻ろう」


「ありがとう…ございます…ごめんなさい…体力が…なくて…」


本当に私の体は体力がない。すぐに息切れを起こすのだ。部屋に戻ると、少し休む様に言われたので、ベッドに横になり休憩をする。


結局お昼も、部屋で食べる事になってしまった。


それでも夜は、食堂で食べる事になった。約7年ぶりに着るドレス。ブラック様はわざわざドレスを着なくてもいいと言ってくれたが、これでも私は令嬢。やはりドレスが着たかったのだ。今まではボロボロのワンピースを着ていたものね。


ブラック様と一緒に食堂に向かうと


「ユリアちゃん、元気そうでよかったわ。さあ、こっちに座って」


夫人が嬉しそうに私の元にやって来て、イスに座らせてくれたのだ。


「母上、また勝手な事を!」


ブラック様が怒っている。


「ごめんなさい。ユリアちゃんが食堂に来てくれたことが嬉しくて、つい…」


シュンとする夫人。どうやら夫人は、ブラック様に弱い様だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る