第38話 公爵家でお世話になる様です
う~ん…
ゆっくり瞼を上げると、見覚えのない立派な天井が。ここはどこだろう。
「ユリア…目を覚ましてくれたんだね。よかった。俺を選んでくれて、本当にありがとう…」
ギュッと抱きしめられる感触が。私、この温もりを知っているわ。それにこの声も。
「ブラック…様…」
天使様がおっしゃっていた通り、体が痛くてだるい。声も出しにくい。それでもブラック様に会えた事が嬉しくて、ブラック様の背中に手を回す。
ゆっくりブラック様が私から離れた。よく見ると、目は真っ赤に晴れ上がり、かなりやつれている。一体彼に何が起こったのかしら?
「ユリア、戻って来てくれありがとう。あの金髪の男性と話をして以降、2日間も何の進展がなかったから、不安でたまらなかったのだよ。このままユリアが息を引き取ったらと思ったら、食事も睡眠も忘れてずっと君を見ていたんだ」
そう言えば天使様はブラック様と話をしたような事を言っていた。
「ブラック様…心配をおかけして…ゴホゴホ」
「ユリア、もう話さなくていい。吐血してしまったではないか!今すぐ濡れたタオルを持ってきてくれ。それから、ユリアの服が汚れてしまった。すぐに着替えを」
近くに控えていたメイドに指示を出すブラック様。
「あの…ここは?」
「ユリア、もうあまり話さないでくれ。ここは公爵家で俺の家だ。ユリアを苦しめ、君の両親を事故に見せかけて殺した君の叔父と叔母、さらに従姉妹は爵位をはく奪され、今は地下牢にいるよ。だからもう、君を傷つける人間はいない。君の両親は借金なんてしてなかったんだよ。それどころか、かなり裕福だったんだ。君の両親が築き上げた財産を、あいつらは奪っただけでなく、ユリアの命まで使い、金儲けするだなんて。本当にゴミ以外何物でもない」
何と!お父様とお母様は、借金などしていなかったのね。それにしても、叔父様たちが捕まるだなんて。という事は、私はこれからどこで生活すればいいのかしら?まさか、孤児?
せっかく助かったこの命だけれど、これからもっと過酷な運命が待っているのかしら?それにもう私は貴族ではないという事は、貴族学院にも通えないのよね。
お優しいブラック様に頼んで、公爵家でメイドの仕事でもさせてもらえないか頼んでみようかしら?でも、こんなヨボヨボでは雇ってもらえないか。
1人悶々とこれからの事について考えていると
「ユリア嬢が目覚めたと聞いたけれど、本当なの?」
バンとドアが開いたと思ったら、真っ赤な髪をした美しい女性と、金色の髪の男性が部屋に入って来た。彼らはブラック様のご両親ね。確か夫人は私に治癒魔法を掛けて下さったと聞いたわ。
「サンディオ公爵様、奥様…この度は…ゴホゴホゴホ…」
「ユリア嬢、無理をして話さなくてもいいのだよ。とにかく横になってくれ」
「そうよ、ゆっくり休んで。それにしても、血だらけじゃない。もしかして血を吐いたの?大変、すぐに医者を呼んで。それから、王宮魔術師たちも。一度見てもらった方がいいわ」
公爵様と夫人が私をすかさずベッドに寝かせてくれた。
「ユリア嬢、いいえ、ユリアちゃんと呼ばせてもらうわね。目を覚ましてくれて、ありがとう。あなたを助けるのが遅くなって、本当にごめんなさい。随分と辛い思いをしたのよね。あれほど辛い治癒魔法を、ハイペースで掛けさせられていただなんて。本当にあいつら、鬼畜以外何物でもないわ。これからはこの公爵家で、皆で仲良く暮らしましょうね。今日から私の事を、母親だと思ってくれると嬉しいわ」
「私の事は、父親だと思ってくれ。ユリア嬢、本当に目覚めてくれてありがとう。今まで辛い思いをした分、どうかこれからは目いっぱい楽しんで欲しい。その為には、まずは元気にならないとな。それから、ブラックとの婚約だが…」
「父上、ユリアは目覚めたばかりなのですよ。とにかく、今後の事は俺から話しますから。さあ、ユリアは着替えをしますから、父上も母上も出て行ってください」
そう言ってブラック様が、公爵様と夫人を追い出した。どうやらお2人の口ぶりから、私は公爵家に家族として迎え入れてもらえる様だ。でも、元々私は、伯爵令嬢で、公爵家とは縁もゆかりもないうえ、かなり爵位も下だ。
こんな私が、公爵家で大きな顔をして生活をしてもいいのかしら?
「さあ、ユリア様、お着替えをしましょう。坊ちゃま、一度部屋の外に出ていただけますか?」
「俺はユリアが心配だから、ここに…」
「まさか令嬢の着替えを覗くつもりではありませんよね。さあ、外に」
手際よくブラック様を追い出すのは、最後の最後に私のお世話をしてくれたリースだ。どうして彼女がここに…て、そういう事か。きっとリースは、ブラック様に雇われて、私の傍にいてくれたのね。
「リース…またあえて、嬉しいわ…」
「ユリア様、私の事を覚えていてくれたのですね。そう、その笑顔、私、あなた様のその笑顔が大好きですの。これからはユリア様専属メイドとして、お世話をさせていただきますね」
そう言ってほほ笑んでくれたリース。私の笑顔が好きか…なんだか嬉しくて、つい頬が緩む。その後他のメイドたちも加わり、手際よく着替えを済ませてくれた。ついでにベッドのシーツなども新しいものに変えてもらい、湯あみまでさせてもらった。
まさに至れり尽くせりだ。私、こんな贅沢な生活をしていて、罰が当たらないかしら?と、つい不安になってしまったのだった。
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