第31話 ユリアの為に皆が動いてくれる~ブラック視点~

「ブラック、私は伯爵の書斎にある資料の整理を行うから、母さんと屋敷に戻っていてくれ。パッと目を通しただけだが、あの男、相当悪い事をしていた様だ。ユリア嬢への治癒魔法も、尋常ではないペースで行っていたみたいだし。よく7年もの間、体がもったものだ」


「僕はクリーンが心配ですので、彼女を王宮に送り届けてから再び合流します。さあ、クリーン、帰ろう」


「私は大丈夫ですわ。この子、命を落とす瞬間、ほほ笑んだのよ。きっと辛くて苦しくてたまらなかったのに…その顔を見たら私、彼女の為に何かしたいって思って。ブラックがユリア嬢に夢中になるもの分かるわ。私もユリア嬢が心配だから、公爵家に向かいます」


「君は何を言っているのだい?こんなに真っ青な顔をしているではないか。これ以上の我が儘は許さない!さあ、王宮に戻るんだ」


「王太子殿下の言う通りだ。クリーン、君はもう王太子妃殿下なのだよ。本来なら伯爵家の家宅捜索についてくること自体、異例中の異例なんだ。その上、実家でもある公爵家に来るだなんて。とにかく王宮に戻りなさい。王宮でも、出来ることがあるだろう?」


「義父上もそう言って下さっているではないか。ほら、帰るよ。それからブラック殿、義父上、君たちの必死の申し出を今まで聞き流してしまい、本当に申し訳ないと思っている。僕は1人の令嬢を、見殺しにしようとしたんだ。彼女の姿を目の当たりにした今、その事を物凄く後悔している。僕は王太子としても、まだまだの様です」


本当にまだまだだな!こいつがさっさと家宅捜索を承認してくれていたら、ユリアはここまで酷い状況にならなかったのに!そう言いたいが、もちろんそんな事はいえない。


「それでは俺はユリアを連れて公爵家に戻ります。今回の家宅捜索に関わって下さった皆様、ユリアの為に本当にありがとうございました。それでは失礼します」


そこにいる人たちに頭を下げ、部屋を出た。すると屋敷の外には、縄で縛られた伯爵家の面々の姿が。伯爵は真っ青な顔をし、夫人とカルディアは泣いていた。


泣きたいのはユリアの方だ!それでも彼女は、意識を失う寸前まで笑っていた。本当にこの子は!



ギュッとユリアを抱きしめると、そのまま馬車に乗り込んだ。ユリアの為にベッド付きの馬車を準備したが、どうしてもベッドに寝かせるのが嫌で、そのまま抱いたまま座った。


「母上、今日はありがとうございました。まさか母上まで、ユリアに治癒魔法を掛けるとは思いませんでした。どうか屋敷に着いたら休んでください。顔色が悪いです」


前に座る母上に話しかけた。すると


「クリーンも言っていたけれど、この子の顔を見たら何がなんでも助けたい、そう思ったの。あなたと同じ歳で、ユリア嬢はどれほどの地獄を味わってきたのかしら。本当に伯爵一家は悪魔よ。ユリア嬢が元気を取り戻すまで、私も全力でサポートさせてもらうわ。だってこの子は、もう私の娘みたいなものだもの。ブラック、あなた、ユリア嬢と結婚したいと考えているのでしょう?」


結婚か…


「そうですね、俺はユリアと共に、未来を歩んでいきたいです。だからこそ、ユリアには生きて欲しい。この世界の楽しい事、嬉しい事を目いっぱい堪能して欲しい。そう思っています」


「そうね、ブラック、屋敷に着いたらもう一度医者に見せましょう。それから私はもう一度王宮に出向いて、陛下と王妃殿下に会って来るわ。確か我が国の王宮魔術師たちが、魔力の研究をしているはずだから、もしかしたらユリア嬢を助けられるかもしれないの。彼らに協力してもらえないか、掛けあって来る」


そういえば王宮魔術師たちが、魔力の研究をしていると聞いたことがある。彼らに協力してもらえれば…


「母上、ありがとうございます」


屋敷に着くと、早速ユリアの為に準備したベッドに寝かせた。ユリアの為に、専属メイドも付けた。スパイ兼メイドとして送り出したメイドが、どうしてもユリアの専属メイドになりたいと言うため、彼女も付けた。


彼女は短期間のユリアのお世話で、すっかりユリアの虜になった様だ。ユリアは人を惹きつける何かを持っているのだろう。


翌日、王宮魔術師がユリアの治療のためにやって来た。ただ…


「意識がない今の状況ですと、私達にはどうする事も出来ません。それに何よりも、彼女は治癒魔法での治療を拒否している様ですし。ただ、ユリア嬢が息をひき後、ブラック殿と王太子妃殿下、サンディオ公爵夫人が治癒魔法を掛けたら、心臓が動き出したとお聞きしました。もしかしたらその4人の中に、特別な魔力を持っていらっしゃる方がいるかもしれません。ぜひ、皆様の魔力を調べさせて下さいませんか?もちろん、負担にならない程度に、ほんの少しでいいので」


なぜか目を輝かせ、王宮魔術師が迫って来たのだ。こいつら!よく考えてみれば王宮魔術師は、大の魔力バカだと聞いたことがある。すぐにでも断ろうと思ったのだが、母上が


「もしかしたらユリア嬢の治療に役立つかもしれないわ。私の魔力、ぜひ調べて下さい」


そう言ったのだ。確かにユリアの治療に役立つなら。そう思い、王宮魔術師に協力する事にした。


皆がユリアの為に、協力してくれている。だから、どうか早く目覚めて欲しい…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る