第29話 死なないでくれ~ブラック視点~

翌朝、一度公爵家へと戻り、着替えを済ませると、再び王宮へと向かう。メイドからの情報によれば、かなり危険な状況ではあるが、何とか命を取り留めているとの事。一刻も早くユリアを助け出さないと!


ちなみにやる気満々の母上は、なぜかドレスではなく女性騎士団の服に身を包んでいた。この人、一体何を考えているのだろう。そう思ったが、既にスイッチが入っている母上に、何を言っても聞かないだろう。父上も苦笑いしながら、母上を見つめていた。


王宮に着くと、既に騎士団長はじめ王太子殿下や姉上も待っていた。


「姉上、あなたもですか…」


姉上の姿を見て、ポツリと呟いた。そう、姉上も母上と同じく、女性騎士団の衣装に身を包んでいたのだ。百歩譲って母上はいいとしても、姉上は王太子妃、次期王妃だ。さすがにこの格好はまずいのではないだろうか?


そう思ったのだが…


「クリーンが、これは戦争の様なもの!ドレスでなんて行ける訳がない。私は戦いに行くのだからと言って、僕のいう事を全く聞かなくてね…まさか義母上も同じ格好をしていたとは。さすが親子…」


そう王太子殿下が呟いていた。


て、今は母上と姉上の格好なんてどうでもいい。


「皆様お集まりですね。早速今から、伯爵家の家宅捜索に参りましょう。義兄上、逮捕状と捜査令状は…」


「それならここにあるわ。ブラック、ユリア嬢は一刻の猶予もないのでしょう。こんなところで話していないで、すぐに行きましょう。騎士団長様、今日はよろしくお願いいたします」


「もちろんです。まさか伯爵家でその様な恐ろしい事が行われていただなんて。一刻も早く、ユリア嬢を助け出しましょう」


姉上と騎士団長の言う通りだ。急いで馬車に乗り込み、伯爵家を目指す。既に騎士団員たちが、逃亡防止のため、伯爵家を囲んでいるらしい。


「さあ、着きましたよ。殿下と公爵殿は打ち合わせ通り、私と一緒に伯爵の執務室へ向かいましょう。副騎士団長は、伯爵家一同を捕まえて下さい。そして夫人と王太子妃、そしてブラック殿と医師たちは、ユリア嬢救出という事で。時間がない、参りましょう」


一刻も早く、ユリアを助けないと!


「坊ちゃま、ユリア様はこちらです」


皆で伯爵家の屋敷に向かおうとしている時だった。なぜか外でユリアに付けさせていたメイドが待っていたのだ。そういえばユリアは、屋敷ではなく小屋の様な場所で生活をさせられていたと聞いた。


俺と母上、姉上はメイドの方に向かう。


「ユリアの様子はどうだ?それでユリアは…」


「既に意識が朦朧としていらっしゃいます。こちらへどうぞ」


メイドに案内され向かったのは、本当に小さな小屋だった。こんなところに、ユリアはいるのか。母上や姉上も同じことを思ったのか


「こんな荷物小屋の様な場所に、ユリア嬢が本当にいるの?」


「はい、ユリア様は相当ひどい扱いを受けておりましたので。さあ、どうぞこちらです」


メイドがドアを開けると、狭い部屋に小さなベッドが。そこに横たわっているのは、間違いない!


「ユリア、大丈夫かい?」


急いでユリアの元に駆け寄り、抱き起した。既に目はうつろで、何度も血を吐いたのか、周りが血で汚れていた。


「ブラック…様?」


「そうだ、俺だ。助けに来るのが遅くなって、すまなかった。すぐにユリアの治療を!」


近くにいた医師たちに声を掛けた。彼らは公爵家及び王宮専属の非常に優秀な医者たちだ。急いで彼らがユリアの治療に入った。


「ブラック…様…もう私は…助かりません…最後に…あなた様に…あえてよかった。ブラック様…ありがとう…ございます…」


そう言うと、にっこりとほほ笑んだのだ。そして、ゆっくりと瞳を閉じたユリア。


「どうして目を閉じるんだい?目を開けてくれ、ユリア!頼む…」


必死にユリアに話し掛けるが、ぐったりしていてびくともしない。


「ブラック殿、非常にいいにくいのですが、ユリア嬢は今息を引き取った様です」


「嘘だ!ユリアが死ぬなんて…そんな…ユリア、しっかりしてくれ!ユリア」


ユリアが死ぬなんて…嫌だ、絶対にそんな事は認めない!


「頼む、ユリアを助けてくれ。君たち、優秀な医者なんだろ?お願いだ、俺の命を引き換えにしてもいい。だからどうかユリアを」


俺はもう、ユリアのいないこの世界で生きていく事なんて出来ない。俺にとって、ユリアは全てなのだから。


「ブラック殿、申し訳ございません。亡くなった人間を生き返らせる事など、到底できません。どうか…」


「嫌だ!俺は諦めない。魔力が尽きたのなら、俺の魔力をユリアに!」


「お止めください、ブラック殿!」


ユリアに向かって一気に魔力を込めた。その瞬間、体を引きちぎられる様な激痛が襲う。何なんだ、この痛みは…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る