第25話 最期の瞬間まで残りわずかです
屋敷に着くと、すっと涙を拭いた。そしてフラフラとしながらも、何とか馬車から降りる。
「遅いぞ、ユリア!患者様は既にお待ちだ。すぐに着替えてこい」
「はい、かしこまりました…」
とはいえ、私は既に歩くのも辛いくらい弱っている。フラフラと部屋に向かうと、急いで黒い魔術師用の衣装に着替え、患者さんの元へと向かう。
「お待たせして申し訳ございません。それでは始めましょう」
早速治癒魔法を掛けていく。その瞬間、体がえぐられる様な激痛が体中に走る。この痛みは既になれているはずなのに、いつも以上に激痛が走るのだ。
と、その瞬間
「ゴホゴホゴホ」
吐血し、その場に倒れ込んだ。
「魔術師様、大丈夫ですか?でも、体が軽くなりました。ありがとうございました」
どうやら治癒魔法は成功した様だが、もう私には立ち上がる程の力は残っていない。体中が痛くて苦しい。息もしづらい。
「申し訳ございません、ちょっと魔術師の体調が良くなった様で。おい、魔術師を部屋に連れて行け」
近くにいた使用人たちに指示を出す叔父様。すかさず私を担ぎ、そのまま私の部屋へと連れて行く使用人。
苦しい、痛い!
ベッドに寝かされると、そのまま使用人たちが去っていく。今までに感じた事のない痛みと苦しみが、私を襲う。きっと私の体の魔力が尽きようとしているのだろう。
それにしても辛いわ…多分、後持って1日と言うところね。ベッドでもがき苦しむ私の元にやって来たのは、叔父様だ。
「おい、患者様の前で倒れるとは、一体どう言うつもりだ!と言いたいところだが、どうやらもうお前の命は尽きる様だな。本来ならお前にはまだまだ働いて貰いたい所だが、致し方ない。そうそう、お前の葬式には、ブラック殿も呼んでやるから!おい、こいつが死んだら知らせてくれ!それから、こいつはもう動けないが、食事などは不要だ。どうせ後生きて数日だろう。定期的に生死の確認だけ行えばいいからな」
近くにいた使用人にそう吐き捨てると、叔父様は部屋から出て行った。どうやら叔父様も、私がもう長くない事を分かっている様だ。
それにしても、苦しい…
死ぬのも楽ではないのね…
つい数時間前まで、あんなにも幸せな時間を過ごしていたのに。神様って、以外と残酷ね…でも、これも私の運命。
ブラック様や友人たち、私が死んだら悲しむかしら?どうか私の為に、悲しまないで欲しいな。そんな事を、考えてしまう。
苦してく辛いのだが、なんだか無性に眠たくなってきた。もしかしてこのまま目をつぶったら、もう私は、両親の元にいけるのかしら?そんな事を考えながら、ゆっくり瞼を閉じたのだった。
*****
”ユリア、可哀そうに。随分と苦しんでいるのだね。あと少し…あと少しの我慢で楽になれるよ。こっちの世界に来たら、ずっと私と暮らそう”
”あなた様は、この前私の夢に出ていらした方?あの、あなた様は?”
目の前にはこの前夢で見た、美しい金髪の男性がいたのだ。見た目的には、神様に見えるのだが…
”私はビルダ。天界の人間だよ。まあ、天使と言ったところかな。君はとても美しい魂をしている。どうか私と共に、天界で永遠に暮らそう。君の両親も、待っているよ”
そう言うと、それはそれは美しい微笑を向けてくれたのだ。
”両親もですか?あの、私はもう亡くなったのですか?”
”いいや、まだだよ。でも、あと少しで、私達の元に来られる。君は地上で地獄を味わった。それでも誰かを恨むことなく、ひたむきに生き続けた。もうあの様な辛い思いを、永遠にする事はない。私と共に、永遠に天界で暮らすのだから”
よくわからないが、この美しい天使様が私が亡くなった後、面倒を見て下さる様だ。
”ただ、まだ君は亡くなっていない。あと少し、頑張ってくれ”
そう言うと、すっと消えてしまった天使様。それと共に、私もゆっくりと目を開けた。その瞬間、再び激痛が走る。
「ユリア様、よかった。目覚められたのですね。食事をお持ちいたしました。食べられないかもしれませんが、少しでいいので食べて下さい」
目の前には、私に裁縫セットを貸してくれた、新人メイドが、目に涙を溜めながら、スープを持っていた。
「あなたは…ゴホゴホ」
「どうか話さないで下さい。どうか…どうか持ちこたえて下さい!さあ、少しでも食べてください」
よくわからないが、私の事を心配してお世話をしようとしてくれている様だ。でも、私に関わると、叔父様から酷い扱いを受ける。見たところ、とても優しい女性の様だ。
「私の事は…気に…しないで…あなたが…酷い目に…」
必死に訴えるが、思う様に声が出ない。
「どうかもう話さないで下さい。私の心配をして下さっているのですね。私はある方に雇われ、あなた様のお世話を任されておりますので。さあ、食べて下さい」
ある方?この人は何を言っているのだろう…ダメだ、思考回路が停止していて、全く頭が働かない。
そんな私の混乱を他所に、必死にスープを口に運んでくれるが、食べる事が出来ない。
「食事も出来ない程、衰弱されているのですね。お可哀そうに。こんな服では、寝にくいでしょう」
そう言って別の服に着替えさせてくれたメイド。とても優しい方なのね。
「名前…は?」
必死に言葉を振り絞り、名前を聞いた。すると
「リースです」
「リ…ス…ありが…とう」
リースに必死にお礼を伝えた。すると
「こんな状況でも、あなた様は笑顔なのですね」
そう言って泣きながらリースが笑っていた。その日は彼女が献身的に看病してくれたお陰で、朝日を拝むことが出来たのだった。
※次回から、しばらくブラック視点です。
よろしくお願いします。
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