第13話 ユリア嬢に近づきたい!~ブラック視点~
馬車に戻ると、待機していた執事に早速ユリア嬢について調査する様依頼した。ついでに伯爵家についても、調べてもらう様に頼んだ。
「出来るだけ早く調査してくれ。いいな」
「はい、かしこまりました…それにしても坊ちゃまが人間、それも令嬢に興味を抱くだなんて。ただ、あの令嬢はもう長くはない様な…」
「そんな事は分かっている。だからこそ、早く調査を開始してくれと頼んでいるのだ!」
「分かりました。すぐに調査を開始いたします」
彼女が本当に冷遇されているのか、もし冷遇されているのなら、何とかして改善する方法を考えないといけない。ただ、ユリア嬢の弱りようから考えると、あまり長くは生きられないのかもしれない。
クソ、もっと早く再会していれば!とにかく時間がない。何とかしないと!
翌日からも、俺は密かにユリア嬢を見守り続けた。いつも青白い顔をしているが、それでも俺を見つけると嬉しそうにやって来るのだ。その笑顔を見ると、俺も嬉しくなる。ただ、動くと辛い様で、時折辛そうな顔をしているユリア嬢を見かける事がある。
それでも誰かに話し掛けられると、すぐに笑顔になるのだ。あの子はどうしていつも笑顔でいられるのだろう。きっと俺が想像する以上に体は辛いだろうに…
今を必死に生きているユリア嬢。彼女は誰よりもキラキラ輝いていて、美しい。そんな彼女に、俺は少しでも近づきたい。嫌な事を避けて来た俺が、今を必死に生きている彼女の隣に立てる訳がない。
変わりたい、彼女の隣に並んでも恥ずかしくない様な男になりたい。そう強く思う様になった。今まで適当にこなしてきた次期公爵になる為の勉強も、本腰を入れて始めた。
必死に勉強する俺に
「ブラックがついに本気を出してくれたのね」
そう言って母上は泣いて喜んでいた。父上も俺が少しでもスムーズに勉強できる様、つきっきりで教えてくれている。
そんな両親を見ていたら、俺はつくづく親不孝な事をして来たなっと思う様になった。俺には俺の事を誰よりも大切にしてくれる両親や姉上がいる。でもユリア嬢は…8歳で両親を亡くし、一体どれほど寂しい思いをして来たのだろう…
そう考えると、胸が締め付けられる。俺はいかに自分が恵まれた環境にいるのか、痛感した。その事に気づかせてくれたユリア嬢には、本当に感謝しかない。
彼女と過ごすうちに、次第に彼女と歩む未来を想像する様になっていた。俺は本当にどうしようもない男だ。でもそんな俺を正しい道に導いてくれたユリア嬢。彼女が傍にいてくれたら、どんな苦労でも耐えられる。
彼女さえいてくれたら…
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、毎日話し掛けてくれるユリア嬢。そんな日々が1ヶ月程続いたある日。明らかに体調が悪そうなユリア嬢がフラフラと校舎裏に向かって歩いていくではないか。
今日はいつも以上に体調が悪そうだ。心配になって後を付けると、木陰で横になってしまったのだ。慌てて声を掛け抱き起す。すぐに医務室へ、そう思ったが、もう自分は助からない、だから残り少ない時間を俺や友人たちと過ごしたいと訴えて来たのだ。
明らかに辛そうなのに、それでもユリア嬢は笑顔を作っている。どうしてだ、なぜこの状況で笑っていられるのだ?そんな疑問をユリア嬢に投げつけた。すると…
「亡くなった母との約束なのです。いつも笑顔でいて欲しいと言う、母の。だから私はこの命が尽きるまで、笑顔でいたいのです。それにどんなに辛い事があっても、笑顔でいると少しだけ心が晴れるのですよ」
そう言ってほほ笑んだのだ。その笑顔はどことなく寂し気で、今まで苦労してきたことが感じ取れた。
きっと亡き母親の言葉を支えに、今まで必死に生きて来たのだろう。そう思ったら、どうしようもない程胸が苦しくなった。
そんな俺を気遣い、早く教室に行けと言うユリア嬢。こんな弱った状況の彼女を残して、誰が教室などいけるものか!彼女は一体、どんな病気なんだ?本当に治らないのか?そんな思いから、彼女に病名を聞いたが、はぐらかされてしまった。
と、その時だった。激しくユリア嬢がせき込んだと思ったら、なんと血を吐いたのだ。人が血を吐く場面なんて、初めて見た。吐血するだなんて、よほど悪いのだろう。彼女の言っていた通り、後わずかな時間しか生きられないのだろう…
その現実に、頭を鈍器で殴られたような衝撃が襲った。嫌だ…俺は彼女を失いたくはない。やっと6年もの時を経て再会できたのに…
頭の中が真っ白になった俺は、家に帰ると言う彼女を馬車まで送った。本当にこのまま彼女を馬車で返してもいいのか?このまま我が家に連れて行って医者に見せた方が…
そんな事を考えてしまう。
ダメだ、そんな勝手な事をしては。とにかく今日は家に帰そう。そう思い、彼女を馬車に乗せた。本当は家まで送りたかったが、公爵令息の俺が送って行ったなんてあの意地悪な従姉妹に知られたら、またユリア嬢がイジメられるかもしれない。そう思い、この場で彼女を見送る事にしたのだった。
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