謎の神々の成立


 神話のエピソードが全て本当だと信じる人は(研究者でも)いないだろう。

描かれている活躍は大和の国の正当性を

世に喧伝する為のものだ。

しかし嘘とも言い切れない。


書物の意義は

『多くの相手に同じ内容を伝える』

これが一次利用。

二次利用は後の世代に向けてだ。

引き継いでいく必要性のある事柄を

『書き送る』

文字は後世に事実を伝えていく為の道具なのだ。

 しかし何があったかをストレートに伝えられるか?

あり得ないのだ。


 第二次世界大戦下の中国においての日本軍の非道は教科書に全く記載されない。

資料として読んだだけでも言葉につまった。

 錬金術師が主人公のとある人気漫画には

『日本軍が行った非道な実験』が元ネタの

エピソードがあった。

気がついたのは連載終了後だったが。

アニメ化されたのでタイトルがすぐ浮かぶかたも多いだろう。

しかし『元ネタ』の方をご存知の方は

少ないと推察する。

教科書に載っていないのはもちろんだか、

資料となる書籍は検索しにくいからだ。

タイトルを正確に入力しないとヒットしない為、なんとなく検索では駄目なので。

この実験に関わる遺物がかつての日本軍施設跡から発見され騒ぎになった事もだが。


 これを踏まえれば、後世に向かって残された書物の内容が全てではない事は明白。

 しかし、秘密は伝えて行かなければならないときがある。秘密を途絶えさせる訳にはいかない事情がある場合が。

勿論、隠されたまま葬られる事もあるだろう。しかしそれで済むのなら秘密として軽いのだ。

 『なんだそれは?』と最初はくびをかしげた。言葉遊びの様に浮かんできたので、自分でピンとこなかった。

しばらくしてふと思いついたのは某有名剣客漫画。時代は明治。

現在新シリーズが好調な様子なので、ここでちょっとエピソードを借りる。

借りるのは旧シリーズから‥なので、新シリーズしか知らない人は分からないかも?

よければ古いのも読んで欲しい。

 主人公の剣客が過去の夢を見るところから始まるエピソード。

仲間の一人が重傷を負わされた状態で発見。これを発端に主人公の周りで因縁が呼び覚まされていく。

幕末時代の仇敵との再会と死闘。

さらに政府のトップであり、旧知の仲間でもある人物から後継者の現状を知らされる。

後継者と言えば聞こえはいいが、実際は

汚れ役。邪魔者の排除を行う暗殺者。

存在している事自体が政府にとっては汚点。さらに頭の回転、性格両方”キレる"人物だったので危機感を抱き暗殺者を暗殺しようとしたが失敗。国の覇権を狙い勢力を拡大しつつある。そして、後継者を止める為に協力して欲しいと。

 このくだりが『続いているからこそ秘密のままにしておかなければならない』例。

 政府が存続しているからこそ秘密は守られなければならない。

仮に暗殺者の暗殺に成功していたとしても、

事実は消せない。暴こうとする者は排除しなければならないが、その為には秘密を受け継ぐ者が必要だ。

秘密の存在を知らなければ、守る事は出来ないのだから。

 政府として樹立していなければ、幕末の混乱のなかで起こった勢力争い、出来事の一つで終わっただろう。

樹立してしまったからこそなのだ。


 上記の二つは政治の話なので神話と関係無いじゃんと言われそうですが、政治の政は『まつりごと』とも読みます。

つまり『祭りごと』の意。

二つは一つだった。

時間を遡るほど『祭祀』と『政治』は

混じり合い、区別がなくなっていく。

 最初にあったのは『祭祀』だった。

けれど『祭祀』のなかから『政治』が別れ

やがて『巫者』と『為政者』は別々になった。

しかし変わらなかった点もある。

どちらも『支配する側』である事だ。

異変が起こった際に矢面に立つ人。

この場合は『責任者』と表現する方がわかりやすいか。

『巫者』は信仰によって民衆の思想を誘導し、『為政者』は施策でもって人々の生活を

制御する。

何事もない時はいい。

が、敵が攻め寄せて来たならば……。

敗北を喫したならば……。

 『為政者』は『王族』『皇族』と言われる方が多い。

敗戦国の『王・皇』族は絶やされる。

異端である神も、祀る巫者含め根絶やしにしなくては。

 

 王・皇は敗戦の場合絶やされる。

 一方で民衆に新しい王権と統治とを認めさせ、古い思想を排除しなければならない。

権力の入れ替わりは神々の興亡史。

古い神は追いやられ忘れさられていく。

しかし。

民の営みの全てを断つする事はできない。


 被支配者は新たな施政を受け入れさえすれば、生きながらえる機会が与えられる。

今日を生きる為に古い物を捨て、

こだわりを持たずに新しきを受け入れる。

これもまた当然。だれだって命はおしい。

が、その生活の全てに監視の目が行き届く訳もなく。信心は揺るがなくとも、生きる為に融通無碍でなくては。弱き者の処世術。

一方では文字がない為に、人から人へ直接伝え残すしかない。親から子へ、孫へ。

共同体の中で語り継ぐ。

けれど、不作で食物が不足する事もある。

病が流行る事もある。

地揺れが、大雨が襲う事もある。

多くの命が失われる時には、伝承も失われる

のだ。

頼りになるのが人の記憶である以上は。

由来が時の流れに溶けて、名だけが残る。

 文字を知らない者達の間では。


 百巻を超えて連載が続く海洋ロマンをご存知だろうか?

割れない、燃えない特殊な鉱石に刻まれた

特異な文字の謎をめぐり、仲間の一人は故郷を滅ぼされた。

 文字は情報を遺す為に有益な道具だが、

それを知るものは限られなければならない。


 書かれているのは輝かしい栄光ばかりではないからだ。


 『神は人が作るもの』とは以前読んだ本のセリフだ。当時はピンとこなかったが‥。

信仰が神を生かすなら、信心が途絶えた時

神も死ぬ。だけど、名前だけの神の来歴は、謎のままであり続ける方が良いのかもしれない。



 



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ヤマトのクニ あかな @koubai_1024

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