うまなちゃんのチョコレート工場 第二話

 この世界は娯楽が無いというだけではなく、甘みも全く存在しないと言っても過言ではない。この世界にも野生の果物や砂糖の原料となる甜菜や砂糖黍なども存在はしているのだが、野生のまま全く品種改良もされていないのでそのままではとてもではないが口にすることも難しい状態なのだ。

 偽福島君の描いたスイーツをうまなちゃんに頼んで現実のものにしてもらうとしても、実際にうまなちゃんが食べていないものばかりなので見た目と味が一致しないので私の脳は混乱してしまうことになる。この世界に来てからもう何年も経っているというのに、そう言った事に気付かなかったのは私も偽福島君もそこまで甘いものに固執していなかったからなのかもしれない。ただ、一度甘いものが食べたいと思ってしまうとその欲求には抗うことが出来ず、私と偽福島君は元の世界で見たとある映画のような話をうまなちゃんに提出したのだった。


 翌朝、いつもと同じように目覚めた私は日課である散歩をしてから食堂に向かったのだけれど、その食堂にはうまなちゃんの姿は無かった。何か用事でもあるのかなと思いながらもいつものように朝食をとりながらぼーっとしていると、朝食をとりおえたイザーさんから謎の手紙を手渡された。

「うまなちゃんからの招待状です。愛華ちゃんと私が一緒にうまなちゃんの作った工場へ見学に行くことになりました。福島君はここでお留守番というか、次回作のためにもう少し風景や建物を描いてもらうことになってるんですよ。じゃあ、出発はお昼ちょっと前になると思いますので、それまでに準備だけはしておいてくださいね」

「あの、準備って言われても何をすればいいのかわからないんですけど。工場見学って事だから普段着で良いんだと思いますけど、ドレスコードとかあったりするんですか?」

「全然ラフな格好でいいと思いますよ。他に参加されるのは四天王の方たちなんでそこまで気にする必要もないですよ。今回は御三家のお二方は参加しないで見ているそうですからね」

「四天王とか御三家とかそんな人達っていましたっけ?」

「それっぽい人はいましたけど、愛華ちゃんの描く小説のキャラクターで人員が足りない時のための要因として公式に認めることになったんですよ。今までもうまなちゃんを陰で支える存在はいたんですけど、四天王のうち三人は支えていた人達で残り三人は敵対していた国の人達ですね」

 四天王というくらいなのでてっきり四人組なのかと思っていたのだけれど、イザーさんの話を聞くと四天王は六人いるようだ。何に対して四天王だというのかわからないけれど、ここの四天王は六人いるという事だけは理解出来た。何で四天王なのに六人いるのかという事を凄く突っ込みたくなってしまったのだけれど、そんなことを言ってしまえば私がずっと新作の小説を書くことが出来ずにいた事にも波及してしまいそうなので黙っている事にした。イザーさんは私の事を責めてきたりなんてしないとは思うけど、何となく小説を書けていなかったことが私の中で負い目として存在しているのだ。

「ちなみになんですけど、今回はチョコレート工場に見学に行くという事で四天王の皆さんは小さな子供になっていますが気にしないでくださいね。愛華ちゃんはいつも通りの愛華ちゃんのままで楽しんでくださいね。ちなみになんですが、チョコレートってどんな感じの食べ物なんでしょうか。私はまだ食べた事が無いんで想像も出来ないのですが、簡単に作れたりするんですかね?」

 私はチョコレートを一から作ったことが無いのでどれくらい難しいのかわからないけど、工場で作るのであればそこまで気にすることも無いかもしれないな。私がずっと昔に手作りした時のように溶かして型に入れて固めるだけだと思うし、そこからならそんなに難しい事も無いとは思う。

 たぶん、この世界にもカカオに近い植物はあると思うしチョコレートっぽいものは作れるような気はしている。味にこだわらなければ似たようなモノは簡単にできると思うのだけれど、甘みが圧倒的に少ないこの世界で本当に美味しいチョコレートを創ることが出来るのだろうか。私としては甘みを抑えているハイカカオチョコレートも好きなのだけれど、それだけだと満足出来ずに甘いチョコレートも食べたくなってしまうのではないだろうか。

 偽福島君は私に会わせてくれていただけで本当はチョコレート自体をあまり食べた事が無いという事で興味自体ないみたいなので気にすることも無いと思うのだけれど、イザーさんはチョコレートに対して物凄く期待しているみたいなので出来るだけ本物に近い美味しいチョコレートを食べてもらいたいと思っている。

 私が書いた小説のまま物語が進んでいけば美味しいチョコレートを食べることも出来るとは思うのだけれど、私の書いた小説とは違って工場の持ち主が私からうまなちゃんに変わっているという事を考えても、そんなにうまい事話は進まないのではないかと思えてしまう。

「うまなちゃんが作ってくれているチョコレートが本物に近いか教えてくださいね。ある程度の原料は福島君の話を聞いて集めてあるんですけど、お二人の世界と全く同じ物がこの世界に存在してるわけじゃないので代用品になってしまいますけど気にしないでくださいね。美味しいものがちゃんと出来れば次回からはうまなちゃんが量産してくれるようになるから安心ですしね」

 味さえ覚えてしまえばあとは偽福島君の描いた絵を現実にするだけなのだけれど、そこまで美味いチョコレートを創ることが出来るのか、私は少しだけ心配になっていたのだった。

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