第十五話 現実世界のクラスメイト
偽福島君と言われるのが気に入らいない偽福島君は本物の福島君を見てみたいと言っていたのだが、あっちの世界に行くことが出来ない私達にそれを実現させるのは不可能かと思われた。
「向こうに行けないんだったらさ、行かないで覗いちゃえばいいんじゃないか。ほら、うまなはそいつのいた町に行ったんだし、今なら繋がりも出来てるんだから覗くことも出来るだろ。俺の描いたこのテレビはこいつの友達が何してるか見ることが出来る機能があるテレビなんだからさ」
「なるほど。それは良い案だな。福島まさはるはいつも私が思いつかないような奇抜なアイデアで驚かせてくるな」
「全くですね。なんでそんなに奇抜なアイデアが思い浮かぶのに小説が書けないんでしょうね。ちょっと不思議ですよ」
「俺はイラストが描けても漫画は無理なタイプなんだよ。そいつだって小説は書けても俳句や短歌は無理だって口だろ?」
「いえ、私は俳句とか川柳も投稿してました。そんなに評価はされていなかったですけど」
「うん、私もこいつの俳句は見たぞ。短歌に近いものもあったし詩もいくつかあったと思うぞ」
「私は見てないですけど、福島君のその例えって間違ってるような気がするな」
「そんなのはどうでもいいんだ。さっさとこいつの友達の様子を見るぞ。ほら、さっさとこれを創れって」
この時私はうまなさんの能力を始めて目の当たりにしたのだが、何か特別な儀式を行うのでもなく何か特別な呪文を唱えるのでもなかった。そっと指で絵をなぞっていくと、いつの間にか目の前にテレビが現れていたのだ。
「じゃあ、お前の友達が何をしているのか見てみることにしようか」
見慣れた光景が画面の中に広がっているのはとても不思議な気持ちになっていた。約三年ぶりに見る故郷の光景は特に変わった様子も無いのだけれど、学校の近くにあった商店がコンビニに変わっていたのは意外だった。
「でもさ、私達も無事に卒業出来て高校に入れるってのも不思議なもんだよね」
「そうだよね。あれから趣味に走らず勉強を頑張ったおかげだったかもね」
「だね。鈴木さんがあの時転校しなかったら私達も勉強しないでずっとアレ続けてたかもしれないんだよね。そうなったら今の高校に受からなかったかもしれないな」
「そうかもしれないね。今頃鈴木さんって何してるんだろうね。全く話も聞かないし、どこに行ったのかも誰も知らないもんね」
久しぶりに見た伊藤さんと石原さんは少し背が伸びたように見える。髪型もちょっとおしゃれになってるけど、二人とも凄く大人っぽくなってるな。私もあんな風に変われてたら良かったな。
「何だ、お前の友達か?」
「はい、私と一緒にオリジナルアニメを作ってた伊藤さんと石原さんです。二人ともちょっと大人っぽくなってますね」
「そうなのか。お前の友達はお前の話をしてるんだな」
「そんな事よりさ、俺の偽物はどこにもいないじゃないか。もしかして、死んでるのか?」
「ちょっと、縁起でもないこと言わないでください。これって場所移動とか出来るんですか?」
「出来るんじゃないか。そのリモコンのボタンで操作できると思うぞ」
私はうまなさんから手渡されたリモコンを適当に操作してみた。チャンネルを変えるたびに見慣れた風景が次々と映し出されているのだけれど、そのどれにも福島君の姿は映し出されることが無かった。偽福島君の言ってることが本当だって可能性もあるんだろうか。でも、そんなことは無いと思って私は必死になってチャンネルを変え続けた。
「イチカってさ、福島君と付き合ってないの?」
「付き合ってないよ。そういう関係じゃないって、ただの友達だよ」
「でもさ、二人は本当にお似合いだと思うよ。あの時だって鈴木さんにイチカと福島君の小説を書いてもらって喜んでたでしょ」
あれは松本さんのために書いた小説じゃないんだよ。本当は私と福島君の物語だったんだけど、あれをそのままみんなに見せるのが怖くて私を松本さんに変えちゃったんだよね。そんな事はみんな知らないわけだから私が福島君と松本さんの小説を書いたと思ってたみたいんだけど、本当はそうじゃなかったって松本さんには言っておいた方が良かったかな。でも、そんなことを言ったところで何にも変る事なんて無いと思うけどね。
「小説って、私と福島君の名前が使われてるやつだよね。私も読んだけど凄く感動したよ。で、アレってリオンちゃんが書いてくれたんだっけ?」
「ちょっと何言ってるのよ。私にあんな小説書けるわけないでしょ。国語の成績だって良くないんだよ。私が休んでた時に仲良くなった鈴木さんがイチカとマサハル君のために書いてくれたって言ってたじゃない。あ、わかった。私が休んでた時の話だから気付かないと思って騙そうとしてるんでしょ。そんな簡単に騙されたりしないって。ミオも私の事騙そうとしてるの?」
「そんな事しないって。でも、イチカって鈴木さんと仲良くなりたいって言ってなかったっけ?」
「ちょっと、二人して何言ってるのよ。私そんなこと言った覚えも無いし、大体鈴木さんって知らないんだけど。小学校の時に他のクラスにいたような気もするけど、別に仲良くしたいとか思ったことは無かったけどな。リオンちゃんが私の事騙そうとしてそれにミオも一緒に私の事騙そうとしてるんでしょ。意地悪過ぎるって」
「え、イチカは本当に鈴木さんの事忘れちゃったって事?」
「忘れるも何も、私はそんな人知らないって。みんなどうしちゃったの?」
「それはこっちのセリフだって。急に学校に来なくなったと思ったら転校しちゃってたってのを知ったからってさ、そんな風にいなかった人扱いするのは良くないと思うな。イチカはそういう事する人じゃないと思ってたから、ちょっとショックかも」
あのことが原因で学校に行かなくなったのは私が悪いのであって松本さんには何の落ち度もない。私一人が悪いわけなのだから嫌われたとしても仕方ないとは思っていたけれど、こんな風に忘れられてしまっているという事を知ったのは普通にショックだった。
「え、鈴木さんの事を覚えてないとか本気で言ってるの。鈴木さんと楽しそうに給食食べてたのも見てたし、その後に鈴木さんの小説を嬉しそうに読んでたじゃないか。自分を主役にしてもらえたって喜んでたのに、それも覚えてないって事なのか?」
「給食を食べていた後に小説を読ませてもらったことはわかるよ。でもね、その小説を書いてくれた人が誰だったか思い出せないの。なんで私だけその鈴木さんって人の事がわかってないの。ねえ、どうしてみんなは鈴木さんの事を知ってるの?」
松本さんが私の事を完全に忘れているという事はショックだったけど、みんなの中心にいるべき松本さんがみんなの輪の中から外されそうになっている場面を見るのはそれ以上にショックだった。
伊藤さんも石原さんも石川さんも泉さんも福島君も岡田君もお父さんもお母さんも私の事を覚えていてくれているのに、松本さんは私の事を何も覚えていないというのは逆に私が悪いんじゃないかと思えていた。あの時私に声をかけてくれなければ今みたいに松本さんがみんなから責められることも無かったかと思う。それは本当に申し訳ない気持ちになってしまう。あの時、私も伊藤さんや石原さんと一緒に休んでいれば、こんなにつらそうな松本さんの姿を見ることも無かったんじゃないかな。
これ以上見ていられないと思った私は、そっとテレビの電源を消したのだ。何も映っていない画面に反射していた私の顔は、画面の中で見た松本さんと同じような表情をしていたのだった。
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