第四話 好評で高評

 給食を食べ始める前に松本さんは私が書いてきた小説を読んでくれているんだけど、私は松本さんがどんな風に感じているのか気になって全く手が進んでいなかった。石川さんは私と松本さんを交互に見ながら給食を食べているのだけれど、私達に気を使ってくれて話しかけてくることは無かった。

 私が書いてきた小説を読み終えた松本さんは深く息を吐きながらゆっくりとクリアファイルに小説を戻していた。私が書いた小説でどんな感想を持ったのか気になるけれど、何か言われる前にこの場から逃げたいという気持ちもだんだんと出てきてしまっていた。伊藤さんも石原さんも私の小説を面白いとは言ってくれていた。でも、今回の小説は読んでくれた松本さんが主役になっているわけだし、もしかしたら全然気に入らなくて怒ってるかもしれない。恋愛要素強めの小説じゃなくてもっと爽やかな感じの小説にしとけばよかったって思ったけどもう遅いよね。だけど、この小説が私が今まで書いてきた中で一番高評価だったんだからこれ以外はダメなような気がしてたんだ。

「私ね、読書感想文とか苦手なんで美味いこと言えないと思うんだ。でも、鈴木さんの書いたこの小説いいかもって思ったよ。私と福島君の名前が出てくるからちょっと恥ずかしいなって思っちゃったけど、凄くキュンキュンしていいなって思った。私もこんな青春送れたらいいなって思ったよ。とくに」

「ちょっと待って、待ってって。あたしまだ読んでないんだからネタバレしちゃダメだって。そうやってすぐに感想言おうとするのダメだって。まだ読んでない人いるんだからね。でも、イチカがそんな風に言うなんって期待しちゃうかも。レディーファーストって事で次は私が読むから福島君はもう少し待っててね」

「はいはーい。俺が読むまで感想とか言っちゃダメだからね」

 いつの間にか私の後ろに立っていた福島君に驚いてしまったけど、それ以上に松本さんが良かったと言ってくれたことが嬉しかった。まだ石川さんが読んでないという事で感想はまだ聞けないけど、あの感じだったら悪い印象はもたれなかったって事だよね。ちょっと恋愛要素強めかと思って心配してたんだけど、松本さん達にとってはこれくらいの恋愛は日常的なものなのかもね。やっぱり住む世界が違うのかな。

 松本さんと目が物凄くあっているんで給食が食べにくいんだけど、どうして松本さんは私の事をそんなに真っすぐに見たまま綺麗に食べられるんだろう。私はあまり松本さんの事を直視出来ずにいるのにあんまり綺麗に食べられてないんだけど、この違いって陽キャと陰キャの差ってわけではないよね。私も別に食べ方が汚くないとは思うんだけど、こうして見られているのを感じていると食べづらいかも。

「いや、本当に良かったよ。あたしってあんまり想像力豊かじゃないから小説とか苦手なんだけどさ、イチカと福島君の話だって思うと結構想像出来るもんなんだね。それにしても、鈴木さんの書いた小説の話ってイチカの理想のデートみたいだったんじゃない。こんなデートしたいって小学生の時に言ってたよね」

「言ってたっけ。覚えてないな。でも、ミオの言う通りで結構理想のデートかも。何もしてなくても幸せそうな二人っていいかもって思ったよ。次書いてもらう時はミオを主役にしてもらえればいいんじゃないかな。ねえ、どうかな?」

「え、ああ、はい。石川さんが良ければ私は大丈夫です。でも、福島君の名前をまた借りるのって大丈夫なんですかね」

「大丈夫じゃないかな。でも、この小説で私とデートした福島君がミオともデートなんてしたらただの浮気者になっちゃうかもね。私はそれでもいいと思うんだけど、福島君が浮気者って思われるのは可哀想かも」

「じゃあさ、マサハル君じゃなくて俺の名前使っていいよ。それだったら問題無いでしょ?」

「いや、それはあたしが嫌なんだけど。鈴木さん、絶対にあたしと岡田の名前で小説とか書かないでね。間違ってもあたしと岡田の恋愛小説とか書いちゃダメだからね」

「ちょっと、そりゃ酷すぎるって。俺ってそこまで嫌われてるの?」

「いや、嫌いとかじゃなくてさ、あたしがあんたと恋愛するとか思われたくないってだけの話だから。それ以外に深い意味とかないから」

 福島君の事はこのクラスになってから何度も目で追いかけていたのでどんな人なのかは大体わかるんだけど、岡田君の事は全然わからないんだよね。このクラスにも岡田君の事を好きな人はいると思うんだけど、私は岡田君に興味なんて無かったからどんな人かも良くわかってないんだ。福島君の友達ってのはわかるんだけど、それ以上の事は何も知らない。なので、岡田君の話を作ってくれと言われても難しいような気がしている。

「俺の名前がいっぱい出てくるから恥ずかしかったけどさ、良かったと思うよ。いつかデートする機会があったらこんな感じのデートしてみたいなって思ったからね。君達もこんなデートしたいって思ったの?」

「うん、思ったよ。何も特別なことは無くても幸せな感じってのが良いなって思ったんだ。特に」

「待って待って待って、俺はまだ読んでないんだから感想はもう少し待ってって。ネタバレしちゃダメだって自分たちは言ってるのに俺にはOKみたいな空気って良くないって。すぐ読んじゃうから待っててって」

 松本さんと石川さんだけじゃなく福島君も良かったって言ってくれて良かった。本当は松本さんと福島君の話じゃなくて私と福島君の物語だったんだけど、さすがにそれは気付かれてないよね。細かいところは変えてあるし名前だって何回も確認したし。松本さんが何にも言ってこないって事は、おかしいところは何も無いって事でいいんだよね。

「マジいいね。みんなが感想言いたくなる気持ちわかるわ。鈴木さんって才能あるんじゃね。難しい言葉とかなくて読みやすかったし、ちょっとした心理描写とかも上手く書けてると思うよ。でも、小説に出てくるマサハル君ってかっこよすぎじゃね。実物より良く書けてると思うよ。ん、って事は、俺を書いてもらう時も実物よりかっこよく書いてもらえるって事になるのか」

「え、岡田キモイ。俺、小説わかってます読みたいな感想気持ち悪いんだけど」

「そんなひどいいい方しなくてもいいじゃないか。でも、俺もいい小説だなって思ったよ。ただ、もう少しエッチな事してもいいんじゃないかなって思うんだけどね。マサハル君もそう思うよね?」

「そんな変なこと考えるのお前だけだって。福島君はそんなこと考えたりしないでしょ。岡田って本当にキモイ」

 岡田君は昨日から一貫してエッチな小説を書けって言ってくるんだけど、さすがにそんなのは書けないよね。でも、福島君が岡田君のその発言を否定も肯定もしてないないというのはちょっと気になっちゃった。もしかしたら、岡田君の言う通りで福島君もエッチな小説を読みたいって思ってたりするのかな?

 まさか、そんなことは無いよね。私の思い過ごしだよね。

 苦笑いを浮かべて岡田君を見ている福島君を見ていると、私はその考えが正しいのか間違っているのかわからなくなってしまっていた。

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