10話
翡翠 side
ドアノブに手をかけた瞬間、僕は
「冷たっ!」
と声を上げ、手を離した。
何でこんなにも冷たいんだ? もしかして……
「煉くん!」
僕は急いで煉くんの部屋に行き、扉を開けるとそこにいたのは──
「えっ……」
抱きしめあっている煉くんと紺くんだった。
「翡翠!?」
紺くんは頬を赤らめて驚き、煉くんはなんでここに居るの? という表情で僕を見つめた。一瞬時が止まった気がした。
あぁ、紺くんは煉くんのことが好きだったんだ。諦めるって心の中で誓ったのに、やっぱり心のどこかでは僕は紺くんの事を諦められていなかったんだ。
ボーっとそんなことを考えていたら
「翡翠?」
と心配そうに僕の名前を呼ぶ煉くんの声でここにきた目的を思い出した。
「煉くん、氷雨くんが!」
「っ!?」
「氷雨くんの部屋のドアノブが異常に冷たいの。もしかすると病気のせいかも」
慌てて言うと煉くんもそれだけヤバいのだと察知したみたいで、急いで氷雨くんの部屋の前に行った。
「冷たっ!」
発火の病気を持つ煉くんでさえ扉の氷を溶かす事が出来ないほど、状況は非常に悪かった。
「クッ……」
一向に部屋は開かない。多分部屋全体が凍っているのだろう。煉くんだけでは開かないから僕と紺くんはタオルと熱湯を用意した。床にタオルを敷いたら、ゆっくりとお湯をかけていく。少しするとさっきまで1ミリも動かなかったドアノブが少しずつ動き始めた。それ以外の場所もゆっくりと溶かしていく。段々と扉が開くにつれ冷気が廊下に流れ込み、僕らの足を冷気が包み込んだ。
「あと少し……」
冷気が強くなっていくのを感じる。もう少しでそう思った瞬間、ガチャっと扉が開きさっきまでとは違うほどの強烈な冷気が僕らを襲った。
「氷雨くん!」
僕が部屋に入ろうとした瞬間、煉くんがもの凄い勢いで部屋の中に入っていく。氷雨くんをすぐに部屋から連れ出すと煉くんはぎゅっと抱きしめた。氷雨くんは元々肌が白い方だが部屋から出てきた時の姿はまるで雪のような白さだった。
「煉くん洋服を脱いで」
僕がそう言うと煉くんは一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに服を脱いでまた氷雨くんを抱きしめた。なんでそう言ったのかは素肌の方が温めやすいからだ。本当は氷雨くんの服も脱がせた方が効果があるが、凍っているため脱がすことが出来なかった。人肌だけでは無理なので一旦お風呂場につれていき、ゆっくりとお湯をかけてあげる。少し経つと段々元の肌の色に変わっていった。
「んっ……」
小さく聞こえた声と共にピクピクっと瞼が動き、ゆっくりと瞼が開くと天色の瞳が僕らを見つめた。
「み、んな……」
全員を見つめると視線を煉くんに移した。
「れん、くん」
「もう大丈夫だ」
煉くんが優しく撫でると氷雨くんは嬉しそうに微笑んだ。だけど少し眉を下げ、悲しそうな顔をした。
「どうしたんだ?」
「……ごめんなさい」
「えっ?」
涙を流し、小さく零すその言葉に僕らは驚いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、煉くん」
「ど、どうしたんだ? 何も悪いことしてないだろ?」
「ううん、僕が、ぼくが」
段々声が小さくなるとスースーと小さく呼吸音が聞こえた。煉くんは困惑の表情を浮かべながら、そっと眠っている氷雨くんの目尻に輝く小さな涙を拭った。
「何を言いたかったんだ」
「煉に対してだったなぁ」
「まぁ取り敢えず氷雨くんを着替えさせて、ベッドに連れて行こうか」
「そうだな。煉は着替えとけよ」
そう言うと僕と紺くんは氷雨くんを着替えさせるために動いた。
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