8話『崩壊の始まり』

 ?? side


 僕らは気付かなかった。

 崩壊の始まりの音が小さく鳴り響いていることを──

 僕の小さな行動が。この後、僕らの関係を壊してしまうことを。この世に永遠に変わらないものは少ない。そんなことにあの時の僕は気付いていなかった。





 紺 side


 あの日翡翠にキスをされてから、ずっと翡翠のことが気になって仕方がなくなった。この気持ちが恋なのか、それともキスをされて恥ずかしいだけなのか分からない。ただ翡翠を見ていると心臓がバクバク言って、体温が上がる。何でだろうとボーっと考えていると


「なぁ紺。話したいことがあるんだ」


 真剣な面持ちで煉が話しかけてきた。そんな表情で話しかけてくるから、それだけ重要なのだと感じた。


 どうしたんだろう。もしかして病気が早まったとか? もしそうだったら。不安に駆られながら煉の後を着いていく。


「入って」


 連れてこられたのは煉の部屋だった。多分他の人に聞いてほしくないんだろう。


「それで話って?」


 恐る恐る聞く。不安が心の中で蠢く。


「紺、お前翡翠のことが好きだろ」


「えっ!」


 突然のことで驚いた。まさかそんなこと聞いてくるなんて。


 そんな俺が翡翠のことが好きだなんて、そんな。


「ぁ、えと……」


「どっちなの」


「す、好き、かもしれない……」


 戸惑っていると強く言われ、ゆっくりと声に出した途端、体から湯気が出るのではと思うほど急激に暑くなった。


「なぁ紺、そんな気持ちはここに持ち込まないで欲しい」


「え……」


 今まで見たことのない鋭く冷たい目で見られる。ギュッと心臓が掴まれたような感覚がする。


「なぁ僕ら四人はずっと支え合って行くって言ったじゃん」


「うん」


「もし紺と翡翠が付き合ったらどうするんだよ!」


「どうって今までと」


「今までと? 変わらないって思っているの? ねぇ紺」


「……」


 俺は分からなかった。その先がどうなるかなんて。


「付き合ったらどうせ出ていくんだろ! そしたら僕と氷雨だけが残される。そんなの嫌なんだよ!」


「じゃ、じゃあ出ていかないなら」


「どっちにしろこの関係は変わるんだよ! 一緒に居てもやっぱり二人で居たがるだろ。僕らは奇病持ちなんだよ。僕と氷雨だけじゃ無理なんだよ」


 俺は、俺は。


「分かった。離れないから。大丈夫だから。付き合ったりしない。というか出来ないよ。翡翠が俺のこと恋愛的に好きなはずないじゃん。絶対仲間としてだからッ。」


 優しく抱きしめて言う。


 心配しなくても大丈夫だよ。まず付き合うことが無理なんだよ。絶対翡翠は俺のこと恋愛的に見てないよ。絶対、絶対そうだよ。


 翡翠が俺のこと好きじゃないなんて考えたせいか涙が出てきた。


 あぁ、何でこんなにも辛いんだ。気づかなければ良かったのに。


 翡翠じゃないのに心臓が痛い。

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