第45話 腐女子の夏祭りの話。3
「あ、ご、ごめんなさ……」
そちらを見ると、小さな男の子が涙目で謝ってきた。どことなく
ちび瀧田くんは、ごめんなさいと言いつつ、掴んだワンピースの裾を離そうとはしない。
ならば仕方あるまい。人の邪魔にならないよう、端に避けてから職質開始である。
「ぼく、どうしたの?」
しゃがんで目線を合わせながら聞いてみる。
「パパとママがいなくなっちゃった……」
予想通りだ。……わあヤバい、今にも泣き出しそう。
「大丈夫! すぐ見つかるから! お姉ちゃんも一緒に探すから、百人力だよー?」
「……おねえちゃん百人もいないじゃん」
おお、なんだこいつ。
……よし、気を取り直して。
「どこら辺でパパとママいなくなっちゃった?」
「くじ引きのところ……」
くじ引きか。ここまで来るのに何軒か見たぞ。
「これとったの」
と言いながらちび瀧田くんが見せてきたのは水鉄砲。
小さく首にかけられるタイプの物だが、ちび瀧田くんが持ってると大きく感じる。
「おお! かっこいいね」
「おねえちゃんはくじ引きしなかったの?」
お、質問してきてくれてる! これは緊張がほぐれてきた証では?
「お姉ちゃんもやったよ。何が取れたと思う?」
「なになに?!」
期待されてる……。今見せようとしてるの、さっき取った光るボールなんだけど……。
「これだよ」
出した後、光らせてみた。
「わー! 光った」
おおー。想像以上の食い付き。
「……いる?」
「いいの?!」
「良いよ。そんなに喜んでくれるなら、私もボールも嬉しいから」
「……ボールは喜ばないよ」
……なんだこいつ。
じゃなくて、……どうしよう。この混雑の中からご両親見つけるのは絶対無理だ。くじ引きがどこのくじ引きなのかも分からんし。
あ、本部とかってあるかな。大きめのお祭りだからきっとあるよね。
「じゃあ、ちょっと歩こっか! パパとママを探しに行こう!」
「うん!」
元気にお返事してくれました。
私は立ち上がって、ちび瀧田くんの手を取った。
あーら、歩幅ちっこくてかわいい……。
そういえば名前聞いてないよね。ちび瀧田くんとか呼べないし。
「ぼく、名前は何て言うの?」
「
「碧くんかあ! 素敵なお名前だ。お姉ちゃんは
「みずほおねえちゃん。かわいいお名前だね」
「ありがとう! とっても嬉しい!」
えー! かわいいー!!
将来マジで瀧田くんなのでは? ガチ恋製造器になりそうだもん。
あ、……ヤバい。そういえば、みんなに何も言ってないよね。絶対迷惑かけてるよ……。アホだな瑞穂や……。
早く連絡しないと。えっと、スマホスマホ。
「あれ? やっぱ瑞穂ちゃんじゃん」
げっ。この声は……。
「く、
恐る恐る振り向けば、絶対会いたくなかった人物の一人、黒木さんがいた。
今日も今日とてチャラチャラしてるな。
「近く来るまで全然分かんなかったよ。やっぱメイクってスゲーな……って、そいつどうした?」
やべ、碧くんのこと気付かれた。
……今さらっと私の顔面ディスってましたよね?
「瑞穂おねえちゃん、この人だあれ? かれしー?」
なんだ? 最近の幼子はこんなにもませているのか。
「彼氏じゃないよー。全然知らない人だよー」
「おい、それはひどすぎるだろ」
ひどいって言われても。あんたと碧くんが関わっちまったら、この子が将来どうなるか! 私は純粋に生きてほしいんだ!
「おねえちゃんのお名前知ってるんだから、知らない人じゃないよね?」
……。だからなんなんだこの子は!
「あっはっは! なんだよこいつ! おもしれーな!」
それは私も共感します。
「お前、名前は?」
黒木さんしゃがむ勢い激しいな。
「碧!」
「そーか碧。どーせ迷子なんだろ? 俺も一緒に探してやるよ」
黒木さんは碧くんの頭をポンポンしながら、『一緒に探す』などという衝撃発言をした。
良いって! 関わらないでくれ!
「いーですから! それから、どーせとはなんですか」
「なんだよ。ああ、もしかして瑞穂ちゃんの隠し子か?」
「冗談はよしてください」
そういう単語を出すな。
「あと、私だけで充分です。黒木さんが一人で来るわけないですもん。お連れ様を待たせてるのでは?」
「あー? 良いよ、別に。無理やり連れてこられただけだし。夏祭りなんてセック」
「あああああ」
お連れ様って、前言ってた大人のお友達ってやつですね。了解しました。
「奇声あげんなよ」
「あんたの方がヤバい発言しそうでしたよ。止めたんですから感謝してください」
これ、黒木さん絶対引き剥がせないやつだよね。碧くんももう懐いてるし。はあ……。
みんなに黒木さんと一緒にいるとこなんぞ見せたかないので、連絡は碧くんをご両親に送り届けてからにします。ごめんね、みんな……。
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