第3話 前世の僕は本当に死んだのか?


 塹壕で僕が一息ついていると、ダニエルが嬉しそうにやってきた。この非常事態に危機感がない。


「どうしたんだ? 不謹慎な顔してさ」

「いやー。分かる? 聞きたい?」

「別にいい」

「そう言わずに。実はさ、マリアにプロポーズしたんだ!」

「へー。それで、返事は?」

「オッケーだって。この戦争が終わったら結婚する」

「まあ、正しい選択だ。いま結婚してお前が死んだら、いきなり未亡人だ」

「そうだな。こんなくだらない戦争、早く終わるといいな」

「ああ。何のための戦争か分からない。でも他で言うなよ。軍法会議ものだぞ!」

「気を付けるよ。生きて帰るってマリアに約束したからな」


―― 早く戦争終わらないかな・・・



***


―― 夢か・・・


 僕はトニーという名前でまた新しい人生を送っている。いま19歳の大学生だ。


 公務員の両親は共働きで、裕福ではないが生活には困らない。

 僕が10歳の時、眩しい光を見たかと思うと他人の記憶が蘇った。

 夢かもしれないが前世の僕の記憶だと思う。

 僕は2回の人生を経験し、2回とも二十歳の誕生日に死んでいる。


 1回目はナイフで刺されて死亡。

 その場に恋人のメアリーがいたから、犯人はメアリーだと僕は考えている。

 もしメアリーじゃなかったら、その日に僕の部屋にきたサマンサ、ミシェル、ジェシカの誰かだろう。

 僕はなぜ殺されたのか理由は思い出せない。

 でも、きっと女性関係だ。

 今思い返しても1回目の僕はろくな奴じゃなかった。


 2回目は農家の家に生まれて、路上に倒れていた女性に刺されて死んだ。

 親切心から女性を助けようと思ったのだが、強盗か何かに勘違いされたようだ。

 手違いで死んだものの1回目の僕よりはマシな死に方だ。


 僕は最近考えることがある。


―― 僕は今回も二十歳の誕生日に死ぬのか?


 既に2回の人生は二十歳の誕生日に終わっている。『二度あることは三度ある』という諺もあるし、今回も二十歳の誕生日に死ぬ可能性は十分にある。


 僕にはもう一つ疑問がある。


―― 前世の僕は本当に死んだのか?


 僕は自分が死んだところを確認していない。

『自分が死んだことを確認できるわけがない!』と言われればその通りだ。

 でも、僕がアランやドレークの家に行けば、前世の僕が本当に死んだかどうかが分かるはずだ。

 それに、前2回の人生と現世が決定的に違うことがある。

 20年前や40年前には考えられなかったことだが、今は世界中どこにでも旅行に行ける。

 平和になったのもあるが、飛行機を含めた交通網が発展したからだ。


 まず僕は2回目の人生であったドレークの家に向かうことにした。僕が今住んでいる国からは少し離れているが、場所は地図アプリで検索したら直ぐに出てきた。行こうと思えば辿り着ける。


 僕は空港からドレークの実家の農場へ向かった。

 今は収穫がひと段落した時期なので、家業は忙しくないはずだ。


 農場の近くにタクシーを止めて、僕は以前の実家までの道を歩いた。

 20年の時は経過しているが、かつて自分が歩いた懐かしい景色だ。

 僕が懐かしさを感じながら歩いていたら、実家の前の倉庫から男が出てきた。


 髭を生やしているから顔が分かりにくいのだが、間違いない。

 あの男は確実に40歳手前の過去の僕だ。20年間あの男として生きてきた僕が言うのだから間違いない。

 それに、記憶にある手の甲の痣(あざ)も確認できた。


―― 死んでなかったのか・・・


 僕は少し安心したものの、どういう経緯で生き残ったのか好奇心が沸いてきた。

 僕は恐る恐るその男に近寄って声を掛けた。


「あのー、つかぬ事をお伺いしますが、ドレークさんですか?」


 その男は見慣れない不審な青年に名前を呼ばれて驚いている。


「そうだが。お前はなぜ俺の名前を知っているんだ?」


 僕は何も考えずに声を掛けてしまったことを後悔したものの、事情を説明することにした。


「信じられないかもしれないけど、僕は以前あなただったんです」

「何を馬鹿なことを。頭大丈夫か?」

「20歳の誕生日に、その木の下に倒れていた女性に刺されましたよね?」

「なぜ知っている?」

「刺される瞬間まで、僕はドレークでした」


 ドレークが僕の言葉を信用したかは分からないが、少し考えた上で僕に「俺は二十歳までの記憶がないんだ」と言った。


「そうでしょうね。僕がドレークの20歳までを生きていましたから。信用してもらえないかもしれませんが、僕と少し話をしませんか?」と僕はドレークに提案した。

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