何度も死んで別の人間に転生していますが、なぜ転生するのか理由が分かりません
@kkkkk_
第1話 犯人はメアリーかメアリー以外の誰かだ!
僕が双眼鏡で回りを偵察していると、敵の戦車がこちらに近づいてくるのを発見した。
「アンドレ、敵襲だ! 塹壕に隠れろ!」
「ありがとう、マルク。数はどれくらいだ?」
「戦車が1台に歩兵が5人、いや6人だ。まだこちらには気付いていないから、歩兵を狙撃できるか?」
「任せときな! 私を誰だと思ってるんだ?」
そう言うとアンドレはライフルを構えた。
“パン”
アンドレの撃った弾は歩兵の一人の頭部に命中した。
狙撃は成功だ。敵兵は狙撃されるのを避けるため、姿勢を低くしてその場に止まった。
敵兵は辺りを窺っているが、僕たちの正確な場所は気付かれてないようだ。
僕はアンドレに合図を送った。アンドレは再びライフルを構えて敵兵を狙撃した。
“パン”
またしてもアンドレの撃った弾は歩兵の一人の頭部に命中した。
歩兵は残り4人。しかし、戦車が1台・・・
僕たちの装備で戦車を破壊することはできないから、そろそろ潮時だ。
それに、今の狙撃で僕たちの居場所が敵に気づかれた可能性がある。
そろそろ場所を変えければ。
僕がアンドレに撤退の合図を送った瞬間、戦車がこちらを狙って砲撃してきた。
―― やばっ、見つかった
***
「うー、うー」
「ねえ、大丈夫? アラン、しっかりして」
どこからか声が聞こえる。僕はその声の主に体を揺らされて、目を覚ました。
―― 夢か・・・
いつも見る夢だ。
シーンは違うものの何度も同じような夢を見ている。
学生の僕がなぜか戦場で戦っている。
夢の中で僕はマルクと呼ばれているのだが・・・
マルクとは誰だろう?
僕の名前はアラン。今日が二十歳の誕生日の大学生だ。
レポートの提出のために昨日徹夜したから、下宿先に戻ってきた途端に睡魔に襲われて寝てしまった。
夢にうなされていた僕を恋人のメアリーが起こしてくれたようだ。
目を覚ました僕は、メアリーが泣きながら僕の腹部を押さえているのを観察している。
―― どうしたんだろう?
メアリーが触れている自分の腹部に手を当てると生ぬるい感触がした。生ぬるい感触のある手を見ると赤く染まっている。
― 血だ・・・
僕は出血している。それも相当な量だ。
血の付いたナイフが僕の横に落ちている。
凶器はこのナイフだ。
僕は何があったのか思い出そうと深呼吸をした。
―― ダメだ。何も思い出せない・・・
この状況からの僕の推理は、犯人はメアリーかメアリー以外の誰か。
出血が酷いせいか、お粗末な二択しか思いつかない。
僕は『犯人かもしれないし犯人じゃないかもしれないメアリー』に看取られて死んでいくのか・・・
―― 最後はこんなもんだ。ハッピーバースデー アラン・・・
そんな余計なことを考えていたら、眩しい光が見えてそのまま僕は意識を失った。
***
「ダニエル、そのレストランにお気に入りの子がいるのか?」
「そうだ。マリアっていうんだ。もう20回は通ってるな」
「落とせそうなのか?」
「いやー、どうだろう? 10回以上はデートに誘ったけど返事ないな」
「戦場に近い場所だから、毎日いっぱい兵士が口説きに来てるんだ。ライバル多そうだな」
「いやいや、俺ほどいい男の兵士は他にはいない。ライバルが何十人いても、最終的には俺が勝つよ!」
「そうだといいなー」
僕たちはそう言いながらレストランに着いた。
レストランの看板には2匹のトカゲの絵が描かれている。
何か由緒ある絵なんだろうか?
僕はそう思いながら、ダニエルとレストランに入った。
僕たちがテーブルに座ると一人のウェイトレスが注文を取りに来た。
さすがに20回以上通っているダニエルは、メニューも見ずに笑顔で注文した。
「今のがマリア。かわいいだろ?」
ダニエルは嬉しそうに僕に言ったが、僕の好みではない。
僕がライバルにならなくて良かったな。戦場では信頼関係が重要だ。
気を付けないと『一人の女性を巡って仲間割れ』というみっともない事態が発生する。
僕は無視するのもどうかと思ったから、「そうだな。お前好みだな」と適当に返した。
ダニエルと食事をしていると、一人の女性兵士がレストランに入ってきた。
悲壮感のある表情だ。
戦場では、人は心に闇を抱えている。その闇に飲み込まれないためには無理にでも元気よく振舞う必要がある。空元気が常態化すると、ああいう表情が形成される。
長い間戦場にいる兵士の宿命だ。
ダニエルは女性兵士を見つけると言った。
「あれ、ジャンヌだ。第9小隊に配属されていたから死んだと思ってた」
「第9小隊って、1カ月前の激戦で最前線にいた?」
「そうだ。ジャンヌは小隊の副隊長だったはずだ」
「へー、女性なのに副隊長とはすごいな」
「すごいよな。それに、あの戦場から生きて帰ったんだから、かなりの強運の持ち主だ」
それが僕とジャンヌの出会いだった。
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