幸せを知った2人

夢噺

第1話 永遠の終わる音


「俺、あと2年しか生きられないんですよ」


氷の入ったグラスが、カランと音を立てた。中に入っているコーヒーには、目を見開いて固まる自分の姿が映っている。


「・・・は?」


思っていたよりも声が出ず、喉から出た言葉はか弱かった。それでも目の前にいる男には届いたのか、こちらを見てやれやれ、というふうに力なく微笑んだ。


「元々体力がある方ではなかったんですけど、ここ最近立ちくらみが多くて。病院で検査したんです」


「あと、2年って・・」


「しょうがないですね。死には抗えないんで」


なんで受け入れてんだよ、とか、今は大丈夫なのか、とか。言いたい言葉は山ほど思いつくのに、それが音に乗ることはなく消えていく。

目の前で砂糖とミルクにより、最早カフェオレになっているコーヒーを静かに飲みながら呑気にカフェのメニュー表を見ている男は、俺の後輩であり、想い人でもあった。






有名な事務所に所属している俺たちは、グループこそ違うが小さい頃から一緒にいた。

いつから好きになったのかは覚えていない。気付いたら目で追うようになり、一つ一つの行動が気になるようになった。

俺よりも5つ下の後輩である、夢野奏斗。

黒髪のふわふわとした、肩まである長さの髪は触り心地が良く、若干ツリ目なクリっとした黒目は子猫のようで。

普段はクールで落ち着いた雰囲気だが、感情豊かでころころと変わるその顔は幼くて可愛かった。俺よりも少し小さい身長で、元々人との距離が近いのか、駆け寄ってくる姿にいつもときめいていた。



奏斗と別れ、自分の家へと帰っていく。

思い返せば、奏斗はいつも笑っていたな。自分はアイドルだからと、プライベートでも暗い顔を見せる事は少ない。

さっきだって、いつもの笑顔とは違えども微笑みは崩すことはなかった。



あと、2年。2年経てば奏斗はこの世から消える。余命宣告だとしても、死が近い事は確かで。



俺の心情とは裏腹に、腹が立つほどの快晴に思わず舌打ちをする。

玄関を開ける力が強く、八つ当たりしている自覚はあるが、抑えることが出来なかった。

受け入れた顔をする奏斗に、どうしようもなくイラついた。もし奏斗が泣き叫び暴れれば、このイラつきは消えるだろうけど、生憎そんな事あいつがするはずなくて。


仕事のメールをチラリと確認して、ベットに倒れ、目を瞑る。

起きたら全て夢であったことを願うように、そのまま眠りについた。








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