第42話『ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿・1』

やくもあやかし物語 2


042『ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿・1』 






 四時間目の魔法史の時間が終わると全員講堂に集められた。



「グ……校長が来てんぞぉ」


 ハイジが地声で呟いた。


 本人は呟いたつもりでも、ハイジの声はよく通る。とたんに集会指揮のメグ・キャリバーン教頭先生が睨む。


 あ、気持ちは分かる。


 校長はめったに顔を見せないし、いかつくってとっつきにくい。


 なんでも、学校を立ち上げるについて、各方面に気を使ったり抑えが聞くようにしたそうで、それは総裁にヨリコ王女を頂いていることでも分かる。


 でも、議会や貴族たちの抑えとしてはヨリコ王女は若すぎるし、日系でもあることから軽んじられることも無きにしも非ず。それで、直接のファイアーウォールとして長老的貴族であるカーナボン卿を校長に戴いているんだとか。


 ハイジが睨まれたので、その後は静かになって、教頭先生が演壇の下に居たままマイクを握る。


「授業終了後の全校集会で申し訳ない。でも、とても大事な話だから、しっかり聞くように。校長先生、どうぞ」


「うむ」


 鷹揚に頷くと、猛禽類が鬚を付けたような校長のカーナボン卿がゆっくりと演壇に上がった。


「諸君らも承知している通り、ヤマセンブルグを含む全ヨーロッパは東からの脅威にさらされている」


 みんなの顔が上がる。


 日本で東といえば単なる方角だけど、ヨーロッパで東というと、あの巨大すぎる国の事を指す。じっさい戦争やってる真っ最中だしね。


「かの国の脅威は実弾飛び交う戦場ばかりではない。様々な妖や精霊による侵攻は少しずつ、ヨーロッパ全域に広がりつつある。その脅威に備えるために、本校を含む王宮全域に結界を張ることになった」


「校長先生、すでに王宮には結界が張られているのではないんですか?」


 英国貴族でもある優等生のメイソン・ヒルが口を挟む。


「いかにも。ヤマセンブルグ最高の結界が張られてはいる。だが、それでは心もとないという状況になりつつある。そこで、結界と防御魔法の第一人者を本校に招へいし、結界の補強と防御、それに防御魔法の指導の為に北の国より特別講師をお呼びした。ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿であーる!」


 こういう場合、礼儀として拍手が起こるものだけど、奥のドアからものすごい圧がして、みんな声も無かった。


 だって、ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿は立派な耳を持ったエルフ!


 そのうえ、なんとなくうちのネルに似たおっさんだ。


 え?


「うん、うちのクソジジイだ(-_-;)」


 ええ、ネルのお祖父さんが来るって、こういうことだったの!?


 チラ見すると、ネルは赤い顔して俯いて、でも耳だけはピンと立ってる。


 これは、ネルがブチギレてる時の特徴だよ……たぶん。




☆彡主な登場人物 


やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生

ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ

ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁

ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師

メグ・キャリバーン  教頭先生

カーナボン卿     校長先生

酒井 詩       コトハ 聴講生

同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ

先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)

あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名

 

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