第17話『木葉隠れのオーベロン』

やくもあやかし物語 2


017『木葉隠れのオーベロン』 





「少しだけ後ろめたさはあるみたいだ……」



 森の中の獣道を進んで行くと、ネルが呟いた。


「後ろめたい? 誰が?」


「あ、遠くから結界張って見送りに来たやつらか!?」


「そんなこと言うもんじゃないよ、ハイジ」


「ティターニアだよ」


「あ」


「ああん、森の女親分か?」


「獣道とはいえ、ゲームじゃないんだから、こんなに歩きやすい道があるはずがない」


「え、そうなの?」


「かすかに妖力も感じる、ティターニアか、その仲間が作っておいたんだ……そうだろ、オーベロン?」


 ヒッ


 小さくしゃっくりしたような声がしたかと思うと、薮の向こう、木の根元あたりがホワっと光った。


「隠れても無駄だ! 見えてるぞ、オーベロン!」


 シュバ


「「うわ」」


 気が付かなかったのでハイジと二人で驚いてしまった。


 木の葉が舞いあがって……それから何かが現れるのかと思ったら、木の葉は小柄な人の形にわだかまった。


「……やっぱり見えていたかベロン」


 なんか、一昔前の人工音声みたいな声だ。それに「ベロン」てなんだ?


「国は違うがエルフも森の民だからな」


「そうだな、コーネリア・アサニエルも森の民だったな……ウフフベロン」


「姿を見せたということは、やっぱり後ろめたいか」


「ちがう、めずらしいから見に来たベロン」


「まあ、いいだろ。見に来たのなら、こっちも自己紹介しておこうか」


「あ、それはベロン(;'∀')」


「ヤクモ、おまえから」


「う、うん」


「あ、木の葉の塊に見えているけど、上から5センチくらいのところが目だ、見つめて話してやれ」


「くそ(;'▲')」


 ザワザワザワ


 木の葉が騒いだ。


「下から5センチ、逆立ちしたってダメだからな」


「わ、わかった(;'▢')ベロン」


「元に戻った、上から5センチ」


「あ、えと、小泉やくもです。この度は、森のみなさんにご迷惑をかけて、デラシネのことは責任……どこまで持てるかわかりませんけど、できるだけのことは……」


「よしよしベロン」


「下手に出ることないからね、出てきたっていうことは後ろめたい証拠だから」


「よ、よろしくお願いします(^_^;)」


「お、おう、こちらこそなベロン」


「アルプスのハイジだぞ……で、ネル、あの葉っぱの吹き溜まりみたいなやつはなんだ?」


「ティターニアの夫のオーベロンだ」


「え、ということは森の王さまなのか!?」


「そうなのだ、エライのだベロン<(`^´)>」


 葉っぱをギュっと寄せ集めて偉そうにすろオーベロン。


「アハハ、なんか蓑虫みたいだぞ」


「み、蓑虫言うな、ベロン!」


「それで、ティターニアじゃなくてオーベロンが出てきたのは、なぜ?」


「お、おう、見届けるためベロン……おっと、もう一人いるだろベロン」


 オーベロンの目(のあたり)が、わたしのポケットのあたりを見ている。


 あ、御息所だ!


『チ……見えてたのぉ、蓑虫ぃ』


 めちゃくちゃ嫌そうに舌打ちしをてポケットから顔を出す御息所。


「ミヤスドコロって言うのか、ベロン」


『六条の御息所よ、憶えといて』


「おまえ、サキュバス ベロン?」


『サキュバスじゃないし』


「……でも、人に夢を観させる系のアヤカシ……ベロン?」


『なによ』


「…………う、ま、まあいい、ベロン。正体もバレたし、少しは助けてやらないこともないベロン。そのかわり、後で一つだけ頼まれて欲しいベロン」


『なんでもってわけじゃ……チ、行ってしまった』




 ガサガサガサ……




 獣道がいっそう森の奥まで広がっていった……。 




☆彡主な登場人物 


やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生

ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ

ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁

ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師

メグ・キャリバーン  教頭先生

カーナボン卿     校長先生

酒井 詩       コトハ 聴講生

同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ

先生たち       マッコイ(言語学)

あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン


 


 

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