第12話『お風呂掃除の点検とデラシネ』
やくもあやかし物語・2
012『お風呂掃除の点検とデラシネ』
今日はイース棟の子たちがお風呂掃除の当番だった。
えと、寄宿舎は二つある。
寄宿舎は校舎である本館と、本館とは渡り廊下で繋がってる寄宿舎棟があるんだ。
寄宿舎は西と東に分かれていて、東をイース棟、西をウェス棟っていう。
魔法学校だったころは別の名前だったんだけど、民俗学学校になった時に改められた。
真上から見ると、横倒しになったFの形。二つ出っ張ってるところが寄宿舎棟。
この形から分かると思うんだけど、イース棟とウェス棟は、どことなく疎遠。
だから、お風呂掃除の要領を教えても――分かってんのかなあ?――というところがあって、ちょっと心配だから見に行くんですよ。
お風呂は、前回で言ったけど露天風呂。
脱衣のある所だけ屋根があって、表の札は『準備中』になっている。
ちゃんと掃除が済んでいるというシルシでもある。
さてと……
まだ温もりの残っている脱衣場は床の水滴も拭かれ、マットも立てかけて乾かしてある。
脱衣棚もチェック、パンツの忘れ物も濡れタオルも残っていない。
続いて露天風呂に出る。
普通は「浴室に入る」が正しいんだろうけど、天井の無い露天風呂だから「出る」になってしまうよ。
モワ~~っと湯気が立ち込めていて、半分くらいしか見えない。
まずは洗い場から。
シャンプーもボディーソープも所定の位置、オーケー。
湯桶もお風呂椅子も、端っこにまとめて重ねられてる、オーケー。
さて、次は浴槽だ。
え?
浴槽の奥に人の気配。
よく見ると、見覚えのあるウェス棟の女生徒がお湯に浸かっている。
「あ、ごめんなさい(;゚Д゚)!」
ひとこと言って、脱衣場に逃げる。人が裸で入ってるお風呂に服を着たまま入るのは、とっさには恥ずかしいよ。
でも、考えたら、もうお風呂の時間は終わってるわけだし、あたしは点検に来たわけだし、誤る理由はない。
それに……脱衣場には、その子の脱いだものや着替えとかが無い。
入り口のところに靴も無かった……
ちょっと変だ。
もう一度出てみる。
ザザァ
ちょっと意表を突かれた感じで水音。
――気づかれた――
ちょっと棘のある思念が飛び込んできて身構えてしまう。
シャーー!
その子はマッパのまま、空中を飛んできた!
しゅんかん見えた足の間からはしっぽが見えている、爪も伸びてるし牙も剥いてるしぃ!
バシ!
思わず腕を回したら手応え。
その子は、左のホッペを押え、ちょっとビックリした顔でこっちを睨んでいて、睨んだ目には白目が無い。
もう一つビックリした。
自分の右手が鬼の手を握っている。
ほら、前のシリーズで、俊徳丸を手伝って酒呑童子をやっつけた時にもらった鬼の手。
「あ、あ、ごめん、そんなつもりじゃ(;'∀')」
そう謝って鬼の手を背中に隠したんだけど、その子には完全に敵認定されたみたいで、いっそう牙を剝いてくる!
「させるかぁ!」
空から声が降ってきたと思ったら、目の前にパジャマ姿のネルが耳をピンと立ててガードしてくれている。
シャッ
旋風が吹き抜けたような音をさせて、そいつは消えてしまった。
「だいじょうぶだった!?」
「う、うん」
「目が覚めたらベッドにいないし、露天風呂の方から凶暴な気配がしたし、飛んできたんだ」
「あ、ありがとう」
ルームメイトのネルは尖がった耳を70度くらいにピンと立ててあたりを警戒して、安全だと分かるとやっと耳も目尻もニュートラルにした。
「それで、こんな時間に風呂に来てなにしてんの、ブラでも忘れたかぁ?」
「ち、違うよヽ(`Д´)ノ! お風呂掃除ちゃんとできてるかなあって気になって、今日はイースの当番だったし」
「責任感つよすぎ、で……その孫の手みたいなのは?」
「え、あ、これは!」
ビックリして、いっしゅんで鬼の手を消してしまう。
「え、ヤクモ、魔法が使えんの!?」
「あ、これはちがくてぇ……(;'∀')」
口下手なあたしは、鬼の手の説明をするのに日本に居たころの物語を朝までかかって説明することになった。
それから、さっきお風呂に居たのはデラシネと言って、ちょっと厄介な妖精なんだとも教えてくれたよ。
☆彡主な登場人物
やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン 教頭先生
カーナボン卿 校長先生
酒井 詩 コトハ 聴講生
同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
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