第10話『チャイムとセンパイ』

やくもあやかし物語・2


010『チャイムとセンパイ』 





「スイスじゃヨーデルだぞ!」



 いたずらっ子みたいに目をクルクルさせ、ちぎったパンを振り回しながら言うのはハイジ。


「だめですわよ、食べ物を振り回しながらしゃべっては」


「ああ、ごめん。ここはチャイムだからビビっちまったぜ! 授業の始まりと終わりは、ヨロレイヒーって決まってたからよ」


 ルームメイトのオリビアに注意されながらも、ちっとも聞かないでハイジは喋りまくる。


 近ごろは、うち(ヤクモとネル)とオリビア(オリビアとハイジ)のところといっしょにお昼を食べてる。


 四人掛けに四人だからピッタリ。で、学校のチャイムが話題になった。


オリビア:「チャイムを鳴らすのは、ヤマセンブルグがイギリスと縁が深いからではないでしょうか?」


ハイジ:「ええ!? イギリスと縁が深いと、なんでチャイムになるんだあ?」


オリビア:「だって、チャイムのメロディーってイギリスのビッグベンと同じでございましょう?」


ヤクモ:「へえ、そうなの?」


 日本人のわたしは、小学校以来聞き慣れたチャイムなので、全然違和感なし。ごく当たり前で気にも留めなかったよ。


ロージー:「アメリカはさ、先生が時計見ていて『じゃあ、終わり!』って叫ぶんだよ」


 隣りの四人掛けからロージー・エドワーズが割り込んできた。


ロージー:「あ、割り込んじゃったけど、よかった?」


「うん」「どうぞ」「おお」「いいわよ」


ハイジ:「でもよぉ、授業の始めとかどうすんだ? 昼休みなんかグラウンドで遊んでたら分かんねえだろ?」


 自分の横を空けてやりながらハイジが聞く。


ロージー:「先生がホイッスル吹くんだ、指笛ですます先生もいたよ、こんな風に」


 ピューーーー!


オリビア:「ああ、かっこいいかもですぅ」


ハイジ:「牧場じゃ、犬呼ぶとき指笛だったぞ」


ロージー:「じゃあ、羊を集める時はどうするの?」


オリビア:「ああ、犬に命令すっと、犬が駆けまわって集めるのさ」


ネル:「でも、チャイムが鳴るって、アニメみたいでいいよね(^▽^)」


みんな:「「「「うんうん」」」」


ロージー:「そういや、ヤクモは日本人だよね?」


ヤクモ:「あ、うん?」


ロージー:「日本じゃ上級生のこと、センパイって呼ぶんでしょ?」


ヤクモ:「うん、そうだよ」


ハイジ:「ヤクモもセンパイって呼ばれてたのか!?」


ヤクモ:「あ、わたしは部活とかしてなかったから、先輩ってよばれたことは……あ、一人だけいたかも……」


みんな:「やっぱり!」「ほんと!?」「どんなんだ!?」「わあ、すてきですわ!」



 思い出した……三年の一学期、図書当番でいっしょになった一年生。



 ほんの数回、当番がいっしょになっただけだったけど、なにをするにも「先輩先輩」って、枕詞みたいに付けて呼んでくれた一年坊主。


 顔もおぼろで、名前は……思い出せないけど、わたしより、少し大きいだけの可愛い男子だった。


 いろんなあやかしに振り回されて大変な時期だったけど、ちょっとだけ先輩面ができたのは、その子に対してだけだった。




 先輩




 しゅんかん、その子の声が聞こえたような気がして、ネルが変な顔をしたけど「ううん、なんでも(^_^;)」と返して、午後の授業に行ったよ。


 


☆彡主な登場人物 


やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生

ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ

ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁

ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師

メグ・キャリバーン  教頭先生

カーナボン卿     校長先生

酒井 詩       コトハ 聴講生

同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る