第15話 鬼ヶ島でのマサルの報告
マサルは真剣な表情で話を切り出した。
「大将、あの島はやべぇですぜ。
鬼に乗っ取られていた。
島民は人質を取られているから手出しが出来ねぇ」
「鬼を直に見たのか?」
「ああ、遠目からちらっと。
船も見た。
帆のついたでかい船だった。
2台あるみたいだ」
「鬼はどんな風だったか?」
「ツノは見えなかったけど、毛むくじゃらで体がデカかった!
大将も体がデカいが、鬼はもっとデカい。
何匹居るかは分かんねぇ。
島の人も何匹いるか知ってなかった」
「島の人とは話が出来たのか?」
「あぁ、最初はみょーに余所余所しくって何にも答えてくれなかったんだ。
でもよ、食い物に困っていたみたいだから売り物のキビダンゴをやったら、涙を流して食いよるんよ。
で島が大変になっているのを教えてくれたんだ。
すまねぇ、売り物なのにタダで配っちまった」
「いや、それでいい。
俺達の目的は鬼を討つことだ。
キビダンゴを売るのはそのための手段だ。
手段と目的を履き違えなかったマサルは偉いよ」
連中にとってキビダンゴは生まれて初めての甘いお菓子だったらしいけど、僕からしたらもっと美味しいもの知っているし、ケチケチするものじゃないんだよな。また作れるし。
「かぁ〜、やっぱモモタロウ様はすげぇぜ。
若様みたいにケツの穴ちっちゃくねぇし。
いずれは村を背負って立つんだろ?
神仙のお人だから偉いんだからよ」
「おいおい、滅多な事は言うなよ。
たしかにオレは神仙の國から来たけど、村ではオレは柴山の爺さんとこの単なる居候だ。
お頭様の所へ行くのは単なる小間使いと若様の剣の相手をするためだ」
「でもよ柴山の爺さんに鍛えられってから腕はそーとーに立つんだろ?
若様と違って頭もいいし。
それに男前だからおなごに好かれるしよ」
「おなごにモテた覚えはないぞ。
どちらかと言えば嫌われているんじゃないか?」
「へ?大将、気付いてないのかよ?
大将ってば
神仙の人だからって恐れ多くって声が掛けられないんだぜ。」
がーん、僕って鈍感系主人公なの?
「それによー、なあキギス。
最初、先発隊だって言われた時はどーなるかって思ったけども、大将がしっかりしてくれたおかげで仕事は出来てるし、一度もひもじい思いをしなかったんだよな」
「え、えぇ。
わたしもモモタロウ様に感謝してます。
女のわたしでも役に立ってもらわせてます。
おっとう、おっかあには迷惑になっていないかってそればかり心配かけてます。
モモタロウ様のお手紙にわたし達のことを褒めてたって、お頭様がおっとうに言ったみたいで、おっかあが役に立って誇らしいって言ってくれました」
「お前達がオレに感謝してくれている事は嬉しいよ。
でもそれはお前達がキチンと働いてくれたから当然の事なんだ。
頑張った分だけ報われるのは神仙の國では当たり前なんだよ」
「大将ぉ〜、俺っちは一生大将について行きやすぜ〜」
「わたしも……」
何か二人の僕に対する株が爆上がりしているよ。
そういえば御伽草子の『桃太郎』はキビダンゴ1個与えただけで犬、猿、雉が家来になったんだっけ。よく考えたら原作の方が全然変だよな。
村では疎遠だった二人とこんなに仲良くなれるとは思ってなかった。
だからこそ二人には無事に村へ帰って欲しい。
僕には主人公補正なんて力があるらしいけど、脇役が壮絶な最後を遂げるなんて盛り上がりは絶対に要らないから。
この後もマサルが集めてきた情報をノートにまとめた。
・鬼達の人数は少なくても10人以上いるみたいだ。
・鬼達は襲撃するのと島に残るのとでグループ分けしている。
・鬼達は島の女子供を人質にとっている。
・人質が島の何処に囚われているかは分からない。
本当だったらこれでお頭様の命には十分な回答になると思う。
でも、吉備津彦命様との約束は……。
「マサル、よくやってくれた。
お陰で賊の住処がこの島だって事を突き止めることが出来た。
だけどこの情報だけで鬼達を襲撃するに足りるとは言えない。
残念だけどな。
小さい島とはいえ籠城されたら苦戦は免れない。
攻め込むためには鬼の住処と戦力、そして人質の場所の情報は絶対必要だ。
危険ではあるけど島に渡って自分たちの目で確認する必要がある。
着いて来てくれるか?」
「へいっ!」
「はいっ!」
二人を騙すようで心苦しいが、僕は吉備津彦尊様との約束を果たさねければならない。
だから本隊に代わって僕が鬼退治をして、同時に鬼助けをしなければならない。
危険この上ないけど、戦いになったら二人には引き返して貰おう。
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