第49話 連絡がない
「というやり取りがあったのにも関わらず、だ」
俺は机の上に置いていたコーラを煽った。
ペン立てに置いてあるスマホからため息が聞こえた。
『隆樹からの連絡はこの三日間ないっていうわけか』
この三日間、有谷からの連絡は、古いスマホにも新しいスマホにも来なかった。あいつがそのつもりなら、こちらはこちらで動く。なにが起こっているのか、一切知らないまま有谷が姿を消して終わりなんて冗談じゃない。
有谷の様子からして、有谷自身がなにか勘付いていることは確かだ。自分の身に何かが起きると気づいていながら、俺のことを頼らない。
『俺にできることはあるか?』
「今のところは毎日有谷に連絡を取り続けてもらうぐらいしかないな……。戌亥が来る八月一日にはもう有谷は家からいなくなっているから」
俺は顎をさすった。
戌亥ばかりに調査に行かせることは現実的ではない。なにしろ、彼は俺達とは住んでいる県が違う。そんな彼に「もっと早く来い」とはさすがに言えない。
「有谷がいつ外に出るかは俺が調べる」
『大丈夫か?』
「有谷が直接俺になにも言わないつもりなら、俺だって有谷のことを調べてることはあいつに言わない」
具体的になにをするかと言うと、見張る。有谷は学校には試験の期間が終わるまで来るだろう。だとしたら、姿をくらますのはその後になる。見張るのは試験期間以降だ。
有谷の家が俺の家のすぐ近くで本当によかった。二階の俺の部屋の窓のカーテンを久しぶりに開けてみると、木々の隙間から有谷の家が見える。
父と息子で暮らしている平屋の一軒家にはバイクが二つ並んでいる。一台は俺の父が有谷に譲ったバイクで、もう一台は有谷の父のバイクだろう。
有谷から情報提供がされないのなら、俺の情報源は戌亥だけかと二日前は頭を抱えていたが、悲観することはなかった。
俺が古いスマホの液晶画面を見ると、そこには俺から送られた「七月三十日。午前八時。有谷のバイクあり。」という文字が映っている。
この調子で有谷のことを探ることができれば、いいのだが……。
「……早速来たな」
古いスマホの液晶画面に新しいメッセージが現れる。
『七月三十一日。深夜零時。有谷のバイクあり。』
『八月一日。午前五時。家から出てくる有谷の姿を発見。バイクに乗って、どこかに行く予定だったのを捕まえて話を聞こうとしたが、逃げられてしまった。』
どうやら、未来の俺は有谷から直接話を聞くことはできなかったみたいだ。
八月一日の早朝に有谷が出て行ったとすると、戌亥は有谷が出て行った数時間後に家に訪れていたことになる。
「悪い。戌亥。未来の俺から連絡が来たから確認する。最悪、明日連絡することになると思う」
『分かった。気分が悪くなったら、すぐに名雪さんを頼ってくれ』
「父さんは最終手段だよ……」
戌亥との通話を終わらせて、俺は古いスマホに向き直った。
俺からの連絡には一枚の紙の画像があった。それは封筒には入っておらず、四つに折り畳まれていたらしく、便箋には折られた跡が残っていた。
『母さんが見つかったから迎えに行ってくる。帰ってこなかったら、この村にいると思ってくれ。』
有谷の家には母親がいない。それは小学生の頃に聞いた。
最初の頃は願い事を聞いてはいけないからと有谷が毎週のように神社に来て何を願っているのか知らなかったが、有谷と関わっていくにつれ、彼が自分の母親と一緒に暮らしたいと願っているのが分かった。
俺にもその気持ちは分かるから、願うのをやめた方がいいなんてことは言えなかった。
便箋には村の場所と思われる緯度と経度が記されていた。未来の俺が有谷のことを問い詰めようとして逃げられた時に有谷が落としたものだと俺から送られてきたメッセージには書かれていた。
有谷の目的は分かった。
あいつは母親のことを探しに行った父を追いかけに行ったのだ。
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