第4話 出席番号25番の視点

その動画の二日目を終えた時点で、既に違和感に気づいた人のコメントがちらちらと画面下に流れ出していた。

僕はこのコンビニがどこにあって、なんで移転したのか知っていた。そして、その結末も。だからこそ、佐藤さんの身に何かあってはいけないと思って公開前に連絡をした。

佐藤さんは僕のことを信じてくれただろうか。ああ、でも、信じてくれたとしても全て遅かったのかもしれない。

だって、もう全て録画されてしまったんだから。




一日目。

外の道路で事故が起きた。

あの道は本当に事故の頻度が高い。週に2、3回は警察があそこに行く。昔からずっとそうだ。どんな看板を立てても、標識を用意しても、声かけを行っても、あの場所では事故が無くならない。それはきっと、あの角が悪いということではないんだ。あの角のところに「あの場所」があるからなんだ。

「あの場所」にはお腹を空かせた桜の根がいる。


あの場所については僕が語ることじゃない。

僕が語るべきなのは四人のホラー動画好きが作った動画のこと。

今回は、たまたまその内の一人が「あの場所」にあった「角のコンビニ」について興味を持ってしまっただけ。


続けよう。


事務所だったところの机の下。

もともとこの机の上にはパソコンが置かれていたらしい。今は…ないよね。

パソコンがないんじゃ、この時々聞こえる入店音のチャイムは鳴るはずない。そもそも電気だってもう通ってないんだよ。カメラとかはバッテリーでもたせてる。

じゃあ、この入店音はなんなんだろうね?

机の下のタイルを剥がすと、そこには大きな空間があるらしい。その奥には…

だから、タイルが動かされているってことは何かが出入りしているってこと。「誰か」と「何か」がその空間から出たり、入ったり、入れられたりしているんだろう。


入り口の外に女性が立っている。この女性は明らかにおかしい。こんなに髪が長くて着物を着た人を僕はこの町で見たことがない。それに、長時間ずっと動いていない。場所だけじゃなくて、本当に身動きひとつしていない。合成じゃないかと思うくらい動いていないんだ。これは二日目の朝、入り口のカメラの映像が暗くなるまで確かなこと。

映像が暗くなっても女性は映っているけど、立っている位置が違う。気づかない人は気づかないくらい些細な違いだけど、この女性。入り口の内側に立ってる。

そこで僕はこの女性の異常に気がついた。服の合わせ目からして体は外に向いている。つまり、見ているこっちに背中を向けているんだ。だから、顔も外を向いていると思いこんじゃう。

でも、違う。


顔は、店の中を見ている。

体と頭が逆を向いているんだ。


違和感に気づいた人のコメントが上がっている。具体的に指摘はされていないけど。

店内の方を、カウンターの方だね、もしかしたらその奥の事務所かもしれない、そっちを頭だけで見ている女性。この女性は誰なんだろう?


事務所の床に靴が片方落ちている。誰も入れないはずなのに、どうしてこんなところに?時間が経って真夜中になった。靴はいつのまにか消えている。いつのまに。

事務所の机の下のタイルがずれていたこと、ネズミの悲鳴、タイルが戻っていたこととなにか関係があるのかな?


ああ、そういえば。


腹を空かせた桜の根は雑食、なのかな?


夕方、急に子どもの声が画面からした。本当に唐突に。でも、子どもはどこにもいない。外にも店内にもいないんだよ。


外を暴走族が走っていく。おかしいな。ここの暴走族はあの道を通らないはず。もしかしたらどこからか追われて迷い混んじゃったのかも。追いかけていたのは誰?もしかして、遊んでもらっていたのかな。聞こえた子どもの声を思い出す。追いかけっこ、楽しかったかい?




日付が変わる。一日目終了。




二日目。

女性は変わらず立っている。


画面が激しく動いた!

…治まった。なんだったんだろ。


女性が店内に立っている。

外から中に数cm移動しただけ。だけど、隔てるガラスの扉は大きいよ?


画面が時々暗くなる。なんでこれが起こるのか。暗くなった時、何が起きているのか。考えても知るはずないね。


鳴らないはずの入店音が響く。

実際に鳴っているのかな?それとも、カメラが何かの音を拾っている?


外を子どもたちが走っていく。危ないよ。こんなところで遊んじゃダメだ。画面から聞こえる子どもたちの声は、明らかに子どもの数より多かった。


通りかかる学ランを着た学生たちが、チラチラと店を覗き込む。「見てんじゃねーよ」とこっちが言いたくなる。

夜、その学生たちが無理矢理入ってきた。

そして、


あー、これ、ダメなやつだよー。この学生たち戻ってこないよ。戻ってこれないよ。それに、女性のこと無視するなんて無理でしょ? これは完全に「見えてない」状態だよ。

佐藤さん、止めて! お願い、止めて!

ダメだよ! これ、お食事タイムだ。

あー、なんか出てるぅ…

あー、あー、あー、

……

あー?


あ、セーフ?

怪奇現象過ぎて、寧ろセーフになった?

グロは入らないのね。

映像飛び飛びだし、音声も何も拾われてないからセーフ… か?

まさかこんなとこで怪奇現象がプラスに働くなんて。


学生たちはバカだったんだね。

食べられちゃってもう戻ってこないよ。

今後捜索されても、遺体だって見つからないだろうな。


コメントもすっごく動揺してる。

何が起きているのかわからないからこその動揺だ。


女性は変わらず立ち続けている。

じっと、事務所の方を見ながら、立ち続けている。




日付が変わる。二日目終了。






とうとう三日目が公開される。


嫌な予感が僕の中で膨らんでいた。

これは。この動画は


もしかしたら、公開させてはいけないものだったのかもしれない。


そう思うのは、もう世界に向けて映像が発信された後だった。

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