逃亡
夕日がくれかかるとエラグは、周囲をよく観察した。丸太に手足をしばりつけられ肌着だけにされている女性と、まるで警戒心なしにそこら中に寝転がっているゴブリン。彼はそろそろと動きだして、バックの中の荷物を諦めると、徐々にその輪の中からとおざかろうとした。そのとき
「カァー!!カァー!!」
一羽のカラスが飛び立ち、傍らのゴブリンが声をあげた。
「フゴッ?」
それに驚いたエラグは、2,3歩進むと、転げてドスドスと音をたて、やがて大きな木のそばにくると、ポキリと大きな音がして、おどろいた。小枝を踏んずけたのだ。
「ウーゴーウ?」
ゴブリンがそれにきづき、近づいてきて空中をまさぐりはじめる。まずい、と思ったエラグは、おびえている女性の傍に枝をなげつけた。その瞬間、ゴブリンはそれに気づくと、女性が騒いだとおもったのか、変に納得して頭をかいてその場に寝ころんでしまった。
女性は一連の様子をみていたのかきょろきょろと周囲を見渡しているききそして小さく何かをいっている。
「れか……すけて……誰か」
エラグはゆっくりその場をさると、全速力でかけだしたのだった。そして頭の中で色々な事が駆け巡った。今までクズだったこと、パーティをいくつも追い出された事。今日も追い出されて自分ひとりではあの数は対処できないこと。
「しょうがない、しょうがないんだ」
だがいくつも考えていると、ひとつの記憶がよみがえってきた。それは子供の頃、カノンと二人で過ごした牧歌的な生活。その中で唯一カノンに憧れられた出来事があった。夕方カノンが、彼女の病気の母のために花をつみに山にでかけたこと、日が暮れかけてもかえって来なかったので、村の大人たち皆で探しにでかけたのだ。だが一向にカノンは見つからず大人たちはあきらめかけていた。エラグはその時ばかりは勇敢に、一人でその探索にこっそり参加していた。大人たちにばれると家に戻されるので、こっそりと。
カノンは、ずっと怯えて震えていた。野生のヤリ狼にねらわれていたのだ。ヤリ狼は両方の口の端から全面に巨大な牙がはえていて、それに貫かれると大人でもひとたまりもない。カノンは二匹のやり狼に狙われていて、なんとかある場所に隠れていた。それは巨大な木のうろで、彼女は狼に見つかった後一目散にここに逃げ込んだ。だが身動きが取れずにいたのだ。
(しまった、ここじゃあ、狼に殺されることはないけれど、食べ物もないし、いつ狼がこの扉を破ってくるかもわからない)
彼女の目の前には気の扉があった。ある人と一緒につくった秘密基地なのだ。彼女は祈るように彼の名前を祈った。
(エラグ!!)
その時だった。狼の鳴き声が聞こえた。
「キュゥウン!!」
そして、徐々に、木の扉があく音がする。
「開けちゃダメ、誰なの!!!!」
その時、扉の奥から響いた声に、カノンはこれまでにない安心感を覚えた。
「俺だよ、助けにきた、急いで逃げよう……目くらましはいくつか持ってきた」
「エラグ!!」
そうして、つらだされると、狼たちはこちらをずっとにらんでいたが、エラグが小石をなげてんなんとか距離をたもっていた、エラグは、大声で叫んだ。
「ここにいるぞおお!!!!」
その声に驚いて、狼たちは、たじろぎいだ。
「いまだ!!」
そういうとエラグは閃光爆弾をとりだして宙に放りなげた。
「目をつぶって!!」
閃光が瞬くと、
「1,2,3」
と数えた後
「目を開けて!!」
といわれ、二人で駆け出しなんとか難を逃れたのだった。
エラグは、足にいくつも切り傷があり、結構な怪我していたが、道中、その時にはすでにヒール魔法が使えたカノンが治療して、なんとか村に逃げ帰った。その時から、カノンはエラグを慕うようになって、二人は約束したのだ。
「自分が危ない目にあっても自分を守れるほど強くなろう、お互いを守れるほど強くなろう」
ふと、エラグは走るのをやめて、ゆっくりあるき、やがてあゆみもとめた。
「だめだ……これじゃ、だめかもしれない」
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