第二章 十一話「終戦」

邪龍『ッこの…ッ本来であれば!我ら邪鬼の信仰対象である邪神がッ…今はとにかく忌々しい!!』


血を吐きながら、しゃべり続ける。


祢遠ねおん「…信仰って…はぁ、僕を信仰する人間も邪鬼も、どうして誰も言ってないのに

『守ってもらえてる』なんて勘違いしてるの?信仰してるからっていっても、

神は信仰者を『守る』わけじゃないんだよ」


邪龍『ッだが!我が取り込んだ女神は、信仰者に力を注ぎ、願いを叶えていた!』


祢遠「別に、僕はそうするってだけ、

君が取り込んだ神は信仰者との縁を大切にしたかったんだろう。神だって考えはそれぞれだからね」


アヤ『…つまり、どういうことだよ?』


祢遠は笑いながら、

祢遠「つまり、自分がどれだけ熱く信仰してたって、それは自己満足。本当に助けて欲しいのなら、努力して神をも見返す気で祈れってこと。」


アヤは目を見開いて、固まった。


アヤ『…まさかお前の口からそんなセリフが飛び出すなんて…これは夢か?』


祢遠「…失礼だね?これは…腐れ縁の神が言ってたセリフだよ。受け売り」


祢遠は腐れ縁の相手を思い出して、眉間に皺を寄せて舌打ちした。


祢遠は、自分の信仰者には、特殊な超人的能力を与えている。与えた方が、信仰する想いで更に力が増し、祢遠自身もメリットだからだ。

何度も、腐れ縁の神には止められたやり方だが…。


邪龍『…ぅがッ…ゲホッ…くそ…ッ中でッ女神と人間がア゙ア゙ッ!』


邪龍の腹部に、眩い光が収束していく。


アヤ『お、来たか』


邪龍『ッやめろ!天日結あめのひむすび!!我の力と英智を闇に葬るな!!』


天日結姫あめのひむすびのひめ『…貴方には元からそんな力も英智もありません。今貴方が持っているモノは、私のモノです。返していただきますよ』


天日結姫の言葉で最後というように、

邪龍の身体中の鱗や皮膚が、眩い光によって段々と剥がれ落ち、やがて全てが灰になって消えた。


さっきまで邪龍がいた場所に、

金色の光の玉で覆われた澪菜れいなと天日結姫が現れた。


金色の玉が弾くように消えたあと、

外で何かが倒れる音がした。


祢遠「澪菜、ご苦労さま〜」


澪菜はキッと祢遠に顔を向けると、大股でドスドスと近づいていく。


澪菜「なにが水流滑りだ!結構暗くて怖かったん

だかんね!?」


祢遠「でも今は無事だろう?終わったことだよ

気にしない♪」


澪菜「少しは反省を顔に出してくれない?なんでそんなニッコニコしてんの?」

すると、そこへ、


オーヴォン紅『澪菜!大丈夫だった?』

と、前足を澪菜のお腹へつけて、澪菜を見上げたオーヴォン紅が…。


澪菜は目を点にした。


澪菜「ッ!?!?触れる!?」

澪菜は触れることがわかった途端、

オーヴォン紅の首に両手を回して抱き込んだ。


澪菜「ッむふぉー!!!モフモフ最高ッ!」


オーヴォン黒『…苦しそうだな』

オーヴォン黒が、澪菜の元へ萎れた黒い蛇を咥えて戻ってきた。


澪菜「ッンギャアアア!!さっきの!?」

癒しのかわい子ちゃんから突然爬虫類へ視線を移され、澪菜の絶叫が響き渡った___


______

祢遠「…さっきの黒蛇と邪龍は、邪鬼の邪魂がこの蛇に入り込んで強力な魔物になってたってことか〜」


澪菜は祢遠の隣で、オーヴォン黒に咥えられた蛇を見ていたが、気絶しているのか静かだ。


澪菜「…!あ、そうだ!五織いおりさん!」

邪龍の中に放り込まれたりして、頭から抜け落ちていた。

澪菜はそそくさと部屋から出て、五織さんを探す。


澪菜(…多分、あそこに囚われてた女性が五織さんだよね…?そんなに遠くには行ってないはず…!)


辺りを見回すと、拝殿の床に倒れている女性がいた

澪菜「…ッ五織さんだ!」


悠露ゆうろさんから貰った顔写真と同じ顔をしていた、

この人が五織さんだ。


澪菜「…大丈夫ですか?意識あります?」

澪菜はリュックの中から新しい水と非常食を取り出して五織さんを起こす。


五織「…」

五織さんは起きない。

天日結姫『…おそらく、五織さんの精神がこの異界を拒んでいる状態だから、起きないのだと思います…。異界から出るまでは、起きないでしょう…。無理やり起こすのは、可哀想ですしね…』


澪菜「…ッぶ、無事…ッてことですか?」


天日結姫は、柔らかく微笑んで、

天日結姫『はい、ちゃんと生きていますし、精神的なダメージは大きいですが、無事ですよ』


澪菜「…良かった…」

祢遠「…その女が見た今までの記憶、消さなきゃダメ?」


アヤ『当たり前だろ、普通の一般人が関わる世界じゃない。消すべきだ』

祢遠「…うげ…面倒臭い…」

眉を寄せて、いかにも面倒くさそうな顔をした。


天日結姫『…ところで、この方は、一体どこで【恋夜祭リ】の存在を?』


澪菜「…確かに…どこで知ったんだろ…」

アヤ『?知らないのか?』

澪菜「はい、全く」

五織は、悠露へ1文「恋夜祭リに行ってくる」というメッセージを残したっきり、姿を消している。

どこで、恋夜祭リを知ったのかは分からない。


祢遠「起こして聞き出したいね、ネットとかなら安心だけど、人伝ならちょっと警戒しないとだし…」


天日結姫『…どうやって起こすつもりで?』

祢遠「もちろん、さっきの黒蛇に追いかけ回される夢とか見せて、飛び起こさせる」


澪菜はギョッとして祢遠を見た。

澪菜「手荒すぎない?精神的なダメージだって相当なものなのに」


祢遠「じゃあどうやって起こすんだい?僕は面倒臭いことは出来ればしたくないんだよ」


アヤ『…ここで起こすなら、俺と、アンタは姿消しといた方がいいな』


祢遠「そうだね、頼むよ」


天日結姫『…他になにか、手荒なことはしないでくださいね』

天日結姫は渋々姿を消した。

祢遠はため息をついて、指先に青黒い光をチラつかせ、それを五織の額へデコピンで飛ばした__


――――――続く。



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