只今、異世界へは通行止めです

@nanami-tico

プロローグ

 彼女は太陽に手を伸ばして目を細めた。

 ふわりと制服のスカートが揺れている。いつもはズボンしか履かない彼女が唯一スカートを履くのが学校だ。他の女子とは異なり、少し長めの丈になっている。

 昼下がりの屋上は静かだ。

 立ち入り禁止になっている屋上に出られるのは彼女の手先が器用なおかげだ。少し鍵を弄るだけで開いちゃうのだから勝手に屋上に入るのも仕方ないだろう。

 ここは静かで落ち着く。

 思いっきり伸びをして屋上からの景色を堪能し、一人の時間で気分転換をしてから屋上を後にした。

 階段を降りていくと、すぐに人に捕まる。

まなぶちゃん、今日デートしようよ」

 地元の先輩の阿部豊が声をかけてくるがひらひらと手を払って拒否すると、今度は女子の見知らぬ先輩に呼び止められる。

「今度知り合いの関係でパーティがあるんやけど、一緒に行かない?」

 ご遠慮申し上げた。実は結構人見知りするのである。それにパーティって何だ。小さい時の家族たちのお誕生日パーティという名の宴会なら知っている。

 学は突撃してくる人々をかわしながら自分の教室に向かった。

 年上も年下ももちろん同学年も、男女を問わず彼女を知らない人はいない。

 その見た目から「クール」と言う呼び名を欲しいままにしているが、望んでそうしているわけではない。

「学、次移動教室やで。どこ行ってたん?」

 幼馴染でクラスメイトの冬香とうかが文房具を学に放り投げてきて言った。

「捕まってた」

「また?どこかしらで拾われてんのやから。早く飼い主見つけや」

 飼い主イコール恋人という図式らしい。

 学は苦笑して冬香に抱きついた。

「冬香ちゃんで十分間に合ってる」

 呆れた様子で冬香が笑っているが、満更ではないようだ。そういう冬香にはすでに恋人がいて、学の出る幕はないのだが。

 小さな頃からモテまくる学の心の拠り所の冬香がいれば、彼女はそれで満足だった。家族がいて、その家族で商っている店があって、そこの従業員さん達と戯れて、そして大事な友達がいて。

 学の毎日は幸せというには充分過ぎるものだった。

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