真(チェンジ!!)柳生一族の野望 徳川幕府最後の日

 江戸が燃えている。江戸城が燃えている。江戸城に詰める武士たちもその尽くが燃えている。柳生剣士も燃えている。徳川家光トクガワ・イエミツも既に息絶えた。首と胴体が分離している。

 生ある者はただ二人だった。返り血に濡れる柳生十兵衛と、もう一人。

「効かぬわ十兵衛!!気合が足りんぞ!!」

 黒く輝く強化外骨格に身を包んだ柳生宗矩ヤギュウ・ムネノリは十兵衛の斬撃を弾いた。宗矩は強化外骨格の篭手で十兵衛の剣を弾いたのだ。

 十兵衛の顔色は周囲の炎に照らされてなお、蒼白であった。主君を失い、自らの自我の礎を失ったばかりであるからだ。十兵衛は戦う為に、戦い続ける為に自我の礎を柳生一族の殲滅へと変更した。だが動揺は収まらない。どんな剣豪といえど心が乱れたままではその実力を十全に発揮することなどできはしない。

「親父殿、そんな『ドン・キホーテ』に売ってそうなコスプレ衣装に身を包まねば俺に挑むこともできない臆病者になったのか?」

 十兵衛は話しながらも神速の突きを放った。万物の硬度を無意味化し貫く恐るべき突きだった。それは音を置き去りにし、亜光速で直進する。

 そして十兵衛のツヴァイヘンダーは宗矩を貫いた。

「腑抜けた貴様の剣が通じるか!!」

 胸に刺さった十兵衛の剣を筋肉で固定し、宗矩は十兵衛の右腕を断ち、そして首を断った。

「……俺の負けか」

 かつて柳生の里を去る時に十兵衛は右眼を捨てた。その時から今この瞬間の勝敗は決まっていた。だから十兵衛はここで右腕を失った。全てはこの宇宙が創造された瞬間から決まっていた。

 十兵衛は自身の、いや徳川幕府の終焉を受け入れてしまった。

 自らの主君である家光を守りきれなかった。その動揺が十兵衛の剣を鈍らせた。

 脳裡には家光との黄金の日々が過ぎる。柳生剣士としての自分を捨てて得たかけがえのないものだ。

『僕がただの女で、君がただの男だったら良かったのにね』

 家光というの言葉を思い出す。出会ったときから十兵衛は剣術指南役であり、家光は徳川幕府三代目将軍だった。そして十兵衛が剣術指南役となった段階で柳生と徳川幕府の関係は日々悪化していた。

 十兵衛の敗北後も徳川幕府残党は戦闘を続けていた。

 未だ江戸湾では神君徳川家康トクガワ・イエヤスが黄金の超々弩級強化外骨格を操り、聖女と切り結んでいる。だが太陽もいつかは落ちる。日を落とすために柳生宗矩が邪神とまぐわい創り上げた聖女に敵う者はいない。神君徳川家康と相対する者は、神剣の聖女とも上泉伊勢守の再来とも呼ばれる柳生燕ヤギュウ・ツバメ

 柳生の国を去る時に十兵衛は誓った。柳生による世界征服の実行力たる燕を斬ると。家光と共に平穏な国を作ると。

『何故柳生から去るのですか三厳兄様』

『俺は徳川に忠義を捧げた。それだけだ』

『それは柳生の血の繋がりよりも重いのですか?』

『くどいぞ燕』

『ただ一人の為に柳生を裏切るのですか兄様』

『……いや、それだけじゃない』

 柳生の作る未来がどんなにおぞましいものか。十兵衛は南光坊天海アケチ・ミツヒデの千里眼で見せられた。それは地獄だった。この地球ホシを柳生が征服し、武力・経済的に支配し永遠に民草を搾取し続ける。柳生である者は永遠の栄華を誇り、それ以外の人間は家畜としてあらゆる自由を奪われる。それは柳生と袂を分かつに値するものだった。

 十兵衛は家光と共にこの日本列島に平穏な時代を築き上げるつもりだった。

 またあるいは宗矩と邪神によって、運命を定められた燕をこの世から解放したかった。十兵衛は強大な力を持ちながら何も果たすことはできなかった。燃える江戸城で十兵衛は膝を着き、冷凍された。そして。



 南極、狂気山脈に一人の女がやって来た。女は金髪を長く伸ばし黒いスーツに身を包んでいた。

「柳生ただ一人の反逆者、柳生十兵衛三厳」

 女は狂気山脈の頂上で氷漬けにされた十兵衛を見つけた。

 凍てついた十兵衛に女が触れると、まるで日の光が氷を暖めるように十兵衛は体温を取り戻し、息を吹き返した。

「貴様は誰だ?」

 十兵衛はその女の顔に家光を感じてしまった。もう家光はこの世の何処にも居はしないのに。

「僕はメアリ・クラリッサ・モリアーティ。共に全ての柳生を滅ぼそう」



 

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