騎士二人

北きつね

第一話 門番


 私は、王家に仕えている。

 仕えていると言っても、下っ端の下っ端の下っ端だ。しかし、私はこの仕事に誇りを持って挑んでいる。陛下から任命された職務だ。


「先輩」


 最後まで残った部下だ。

 軽いが、仕事はきっちりとやる。


「なんだ?」


「誰も来ませんよ」


 この時間だと、貴族連中が陛下に面会を求めて訪れる。


「煩い。お前は・・・」


「はい。はい。わかっています。でも、この国はもう終わりですよ?」


「違う」


「違いませんよ」


「国王は残っていますが、有力な貴族連中も、皆が・・・」


「陛下だ。言葉を慎め。まだ陛下がいらっしゃる」


「その残っている人が問題ですよ」


「貴様は!」


「先輩。俺も・・・」


 逃げ出すのか・・・。


「勝手にしろ」


 これが現実だ。


 この国は終わるだろう。

 明日、終わるかもしれない。明後日かもしれない。しかし、私は”門番”の仕事を陛下からの任命されている。


 私は、陛下が住まわれる王城を守る最初の騎士だ。

 許可がない者を通すわけには行かない。それが、私の誇りであり矜持だ。


---


 門番は、私だけになってしまった。

 今朝、アイツも立っている俺の所まで来て、一緒に逃げようと言ってくれた。


 言葉は嬉しかったが、私にはその提案を受け入れることはできなかった。


「先輩。死なないでください。帝国のやつらは、逆らわなければ命は・・・。いいですか、絶対に逆らわないでください」


 アイツの言葉だ。

 解っている。帝国の奴らは、王都を取り囲んでいるが、市民には手を出していない。逃げ出した貴族連中も、拘束された者は居るとは聞いているが、罪なき者を罰してはいない。

 罰しているのは権力をかさに着て、立場の弱い者から搾取していた者だけだ。王国の法に則って捌いている。権力が通じないだけだ。帝国と戦って死んだ王国兵の家族には、帝国が定める見舞金と遺族年金を約束している。

 全ては、先頭で戦っている騎士が行っていることだ。自国の兵でも、王国民に暴力を振るった者は、厳罰を与えている。

 地方都市で、帝国兵が王国民の女性を凌辱した。激怒した騎士は地方都市の門の前で、王国民と帝国兵が見ている前で、女性を凌辱した男たちを張り付けにした。そして、自らの剣で男たちの手と足を切り落とした。男たちは、張り付けにされた状態で死んでも放置された。帝国兵の中には、男たちの助命を嘆願したものたちも居たが、騎士は嘆願してきた貴族家の者を、その場で首を刎ねた。


 王国は、もう終わりだ。

 王城には、陛下と最後まで共にすると言った者たちが残っている。


 門番が一人になってしまった。

 でも、門を守らなければ。もうすぐ、帝国が来る。帝国の騎士が門を通ろうとするだろう。


---


「起きろ!」


 寝てしまったのか?

 門が閉まっていることで安心した。門を背にして剣を抱いて寝てしまっていたようだ。


「あなた方は?」


「門を開けろ」


「できません。ここは、ファロウズ王国の国王陛下が住まわれる王城です。面会のお約束が無い方をお通しするわけには行きません」


「殺すぞ!」


「私も、死にたくはありません。しかし、一度、陛下から”門番”を任されたからには、殺されるからと言って逃げるわけには行きません」


「本当に殺すぞ。俺たちは、お前を殺して、門を壊すこともできる」


「解っております。しかし、私にも”門番”としての誇りがあります。貴方たちが、帝国兵としての誇りを持つのと同じです。お引き取り下さい」


「約束はどうしたら取れる?」


「所定の手続きがあります。王国では、これが”法”です」


「相分かった。手続きを教えていただけるか?」


「それは、私の権限では行えません」


「では、どうしたら?」


「わかりました。ここでお待ちいただけますか?詳しい者が居るか確認してまいります」


「お手数をおかけするが、頼めるか?」


「はい」


 通用口を使って中に入る。多い時には、1,000人もの人が働いていた王城だが、現在では10名にも満たない。


 寂しくなった。

 陛下の世話係をしている老女を捕まえて、事情を説明する。

 内政官が残っておられた。責任者は逃げてしまっていたが、実務を取り仕切っていた者が残っていた。面識がある。他にも、数名手続きに詳しい者たちを連れて、門に戻ると、馬上に居た騎士だけが残っていた。

 剣を地面に突き刺している立っている姿は、騎士の名に恥じない姿だ。

 金髪の髪が何故に靡いている。


 絵画の一部だと言われても信じてしまうだろう。


 声から察していたが、姿を見て確認した。

 この者が、帝国軍の最高責任者。姫騎士で間違いない。そして、帝国の第一継承権を持っている。オリビア殿下だ。


 他の者も、姿を見て確信したのだろう。

 跪こうとするが、皆が踏みとどまった。


 私が、殿下の前に出て、話始めたからだ。

 私の役目は、門番だ。


 帝国の第一継承権を持つ姫騎士でも、私のやることは変らない。


 許可がない者を通すわけには行かない。

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