魔の地の封印~幸せにおなりなさい~
翌朝、目覚めて食事を取り、再び歩き始める。
歩いて行くほどに、空は暗くなり、夜の黒さではなく、気味の悪い黒さに染まっていた。
そんな状態の場所を歩き続けて二日ほど経つと──
「見えたぞ」
オルフェ様が言う。
そこには巨大な城があった。
真っ黒な城が。
「ここからが正念場です、きちんと私達に着いてきてくださいね」
アルフェ様が言う。
「はい!」
「私が最後尾を務めますので、アトリアさんはオルフェ様とアルフェ様に着いていってくださいね」
「わかりました」
「では、この剣をアトリアさんに」
「ありがとう」
ジゼルから封印の剣を貰う。
「では行くぞ」
オルフェ様が走り出し、皆駆け出す。
「「
アルフェ様とオルフェ様が二重に結界を張り、魔の者をはじいていく。
私は必死に二人についていきながら、剣を抱えて走る。
心臓がばくばくと爆発しそうな感覚にとらわれる。
それでも私は必死に着いていった。
広い場所に出ると、明らかに異質な色をした箇所があった。
「アトリア、あそこに封印の剣を刺すんだ」
「分かりました」
「アトリアさん、ここからは貴方の意思を保つことが大事です、だから頑張って」
「は、はい?」
意味がちょっと分からなかったが私はその場所へと向かい、剣を刺した。
憎い
憎い憎い
憎い憎い憎い憎い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い‼‼
殺せ
殺せ殺せ
殺せ殺せ殺せ殺せ
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ‼‼
「⁈⁈」
剣を差し込むほどに、声が強まり、頭が痛くなっていく。
手も指の先端から少しずつ黒く染まっている。
アルフェ様が言った意味が分かった。
この憎悪と殺意に耐えながら、やらねばならないのだと言うことが。
苦しい。
苦しくてたまらない。
でも、私は剣を差し込んでいくのを辞めない。
ゆっくりになっていったとしても、辞めなかった。
それでも──
頭が割れそうだ‼
痛い、辛い、苦しい‼
そう思っていると、六人分の手が私の手を包み込んだ。
「話はアルフェ様から聞いた、六人でやれば多少は分散できることも聞いた」
レオンが言う。
「ただし、信頼しあってる六人じゃないと意味はないと言われました」
アルフォンス殿下が苦笑して言う。
「アトリア、俺達を信用しろ、いいな」
「そうですわ」
グレンとミスティが言う。
「ははは……信頼してますよ、隠し事したくなる位は‼」
そう言って一気に剣を押し込んでいく。
痛みは軽くなったが、他の皆も辛いのは変わりない、早く終わらせよう!
そう思っていると、剣が完全にその場所に全て刺さった。
眩しい光が周囲を包み込む。
目がくらみ、私達は目を覆った。
しばらくすると、光が消えて、周囲は美しい花園へと変化していた。
そして剣は無くなっていた。
「これで魔の地の封印と浄化は完了した」
「では、帰りは私達が送りましょう」
風が吹く。
「わわ⁈」
「きゃっ!」
「何だ⁈」
風に乗り吹き飛ばされるように私達は移動していった。
ジゼルや、オルフェ様アルフェ様はその周囲を飛んでいる。
しばらく風に乗って飛ばされていると、あっという間に王都へと戻ってきた。
「はやーい……」
思わず呟いてしまう。
「それでは最後に」
「?」
「
アルフェ様がそう言うと、指先やらの黒くなった箇所が元通り綺麗になった。
皆も同じだった。
「じゃあ、行きましょう?」
「はい」
門をくぐり、王宮へと向かう。
「魔の地の封印を魔の者の浄化、終わりました」
「アトリア・フォン・クロスレインと、六人の伴侶のおかげです」
「おお、おお! よくぞ無事に戻って来てくれた‼」
国王陛下は歓喜して私達に言った。
そして、アルフォンス殿下を抱きしめる。
「アルフォンス! よく無事に戻って来た‼」
「だから言ったでしょう、無事に戻って来ますと」
アルフォンス殿下は呆れたように言う。
他の皆の親達も知らせを聞いて王宮にやってきて、我が子を抱いていた。
その光景が私には羨ましかった。
そうしてくれる相手は、もうどこにも居ない。
『『アトリア』』
聞き慣れた声と、懐かしい声が聞こえた。
振り向くと、半透明の──父と母が居た。
『アトリア、よく頑張ったな』
『アトリア、頑張りましたね』
「ほ、本当に、母さんと、父さん?」
『勿論だとも、なぁマリーローズ』
『ええ、ティーダ』
母が手を広げる。
私は涙を流して駆け寄った。
「母さん、父さん!」
二人に抱きついた。
『アトリア、母さんを守ってくれていたんだな、偉いぞ』
「う゛ん‼」
『アトリア、今幸せ?』
「う゛ん‼」
幸せだった。
もうすぐ消えてしまう予感がするが、幸せだった。
『いい、アトリア。私もティーダも貴方の事をいつも見守っているわ』
『そうだ、いつでも見守っている』
『だからね、あの六名と幸せになってちょうだい』
「……うん!」
私は涙を流しながら頷いた。
『そろそろ時間ね』
『そうだな』
「もう、逝ってしまうの?」
『約束だからね』
『守らないと』
「……そっか」
二人はもう一度私を抱きしめて頭を撫でた。
『愛してるよ、アトリア』
『愛しているわ、アトリア』
優しくささやく。
『貴方の側にいられないのは残念だけど、いつでも見守ってるわ』
『私はわずかしか居られなかったが、お前の幸せを願わない日は一度も無かった』
『アトリア、貴方は私とティーダに望まれて生まれてきたの、愛されて生まれてきたの』
『だから凜として歩いて行きなさい』
『私達の最後の願い』
『『貴方はどうか幸せになりなさい』』
そう言って母さんと父さんは消えた。
「さて、私も行くとするか」
「そうね、今回の使命も果たせたことだし」
「じゃあ私もお別れですね」
「ジゼル、お前はこの学園を卒業するまではこの地へ居なさい」
「え」
ジゼルがオルフェ様に言われてきょとんとしている。
「何かあったらお前が対処するのだ、それまではアトリアを守りなさい」
「……はい! オルフェ様!」
「学園生活を満喫しなさいと素直に言えないのかしら」
「アルフェ!」
アルフェ様の言葉にオルフェ様が慌てたように言う。
「アトリアさん、皆さん、卒業までですが仲良くしてください!」
ジゼルが頭を下げると──
「「「「「「勿論!」」」」」」
答えは一つだった。
母さん、父さん、私は貴方達の最後の願いを叶えるよ──
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