悪女と呼ばれる男~仕方ないと諦めたけども、他の六名が……~




「式を挙げてはどうだろうか?」

「はいー⁈」

 王様のぶっ飛んだ発言に叫ぶ私。

 そりゃそうだ、私は彼らを愛していない、大切に思っているだけだ。

 そんな状態で結婚なんて不義理だし、何よりアルフォンス殿下以外の五人とも結婚することになる。

 結婚式の状態はどうなるのだ⁈

「公的には第一王子であるアルフォンスの伴侶として出て貰う」

「えっと……他の五名は?」

「後日秘密裏に式を挙げさせる、公的には其方アルフォンスの伴侶で、他の五人はアルフォンスの腹心という立場を取って貰う」

「そ、そんなの皆が納得……」

「して貰った」

「はいー⁈」

 再び叫ぶ私。

 なんなんだ、私が居ない間になんで色々進んでいる⁈

 なんか腹が立つぞ⁈

「わ、私の意見は無視なのですが⁈」

「其方の母君の遺言状があった、『アトリの言う通りにしてたらいつまでたっても事が進まず、場合によっては逃げ出すだろうから囲い込んでしまってください』とのことだ」

「母さんー⁈⁈」

 いつの間にそんな遺言状残してたんだ⁈

 しかも王様宛に、酷くない⁈

「という訳で式の準備をする為」

 侍女が私を取り囲む。

「其方の衣装を作る為採寸を取る、連れて行け」

「みぎゃー!」

 鬼ー!

 と心の中で思いながら私は連れて行かれ、採寸された。

「「「「「「アトリア!」」」」」」

 採寸されてぐったりしている私のところにアルフォンス殿下達が来た。

「何で皆さん了承しちゃうんですか……」

「済まない、今はこれが最善だと思ったのだ」

「そうだ、お前が妃殿下になれば護衛もよりしっかりしたものが着く」

「何より貴方に文句を言おうものなら処罰できるのよ」

「……私が居ない場所で何かありましたか?」

 と言うと、皆がお口チャックモード。

「教えてくださらないなら、私学園から姿消しますよー? いいんですかー?」

 と脅すと慌てて皆が口を開いてくれた。



 聞いた内容だと、平民のダンピールの男が、複数の貴族あまつさえ王族と婚姻関係を持つなんて許せない。

 王族ならともかく、ただの平民のダンピールの男がそこまでいいのか?


 とかまぁ、私が五人と結婚できるなら、自分とも結婚して欲しい、とか色々言われていたらしい。

 特に第一王子であるアルフォンス殿下は、側妃にして欲しいと女達が押しかけ、それを追い払うのに苦労したという。


 私に手出しすると、何が起こるか分からないから六人に色々言ったそうだ。


 まぁ、危険人物だからなぁ、私。


 いや、私だって六人と結婚するとは思ってもみなかったよ!


「式は次の満月の夜──一週間後に行うことになった」

「早すぎ‼」

 また私は驚愕の声を上げる。

「君の気持ちを無視してるのは私達もよく分かっている、何せ君は私達に恋愛感情を向けていないのだから」

 アルフォンス殿下の言葉に理解ができなくなって私は叫ぶ。

「だったらどうして!」

「それでも君は私達を大切だと思ってくれている。それだけで十分なんですよ」

 それだけで十分?

 訳が分からない。


 愛を欲して、愛し合って結婚するものではないのか?



 その日、屋敷から出て一人で悩みながら中庭を歩いていた。

 すると一人の少女が近寄ってきた。



「あの……」

「ん? 何ですかお嬢さん。こんな夜更けに一人で歩くのは危険ですよ、学内に親御さんがいらっしゃるならお連れしましょう」


 というと、少女は目を丸くした。

「聞いた話と全然違う……」

「はい?」

「わたしは第三王女フェルミア、第一王子アルフォンス兄様の妹です」

「アルフォンス殿下の妹君? どうしてそのような方がここに来られたのです?」

「……兄様がとんでもない悪女……じゃない屑男にたぶらかされているって侍女達が言ってたから本当かなって……」

「あー……」

「兄様以外五人の方とも婚姻関係を結ぶと聞いて……だから」

「それは確かに事実です」

「え?」

「私の意思は完全に無視されて行われています」

「貴方はお兄様達が好きじゃないの?」

「大切な方々とは思ってますが、恋愛感情の好きはわからないんですよ、でも皆分からなくていいから私達の側にいてと」

 私は息を吐き出します。

「王様も私の母の遺言で私の意思は無視して式を進めているのでこっちが困惑です」

「兄様達はどうして貴方が好きなの?」

「分かりません……どうして私なんかを好きなのか……私が知りたいです」


「私、兄様に聞いてくる!」


 フェルミア殿下彼女はそう言って屋敷の方へと走っていった。

 不安だったので私は彼女を追いかけることにした。




 屋敷の扉が開けっぱなし、私は静かに戸を閉めると、リビングがざわめいていた。

「フェルミア、その話は本当かい?」

「はい、侍女達がいってました」

「その侍女達を私に教えてくれ、処罰する」

「処罰する前に、どうしてお兄様達はあの方と結婚したいと思ったの? 聞かせて」

「最初から気になったんだ、学生の中で酷く憂いを帯びた表情をしていた彼が、そして彼の傷に触れて、彼の側にいて支えてあげたいと思うようになり、そこからさらに発展して生涯を共に過ごして欲しいと思うようになったんだよ」

「傷、とは何ですの?」

「アトリアは、ハンターに実父の吸血鬼を殺されたんだ」

「!」

「無実の吸血鬼、愛し合って生まれた子故に母と共に逃がされて今にいたる……そして母を失い支えを失った彼を──」


「私達は支え、愛したいと思ったのだ」


 アルフォンス殿下の声が響く。


 そう、母はもう居ない。

 私を愛してくれ、そして精神が病み、体を壊した母はもう、どこにも居ないのだ。

 母は安らかに眠った、けれどもまだ私は復讐し終えていない。

 けど、魔王になるつもりもない。


「だって、魔王を呼ぶ存在だって恐ろしい存在だってみんな言ってたわ!」


 その通り、私は恐ろしい存在だ。


「フェルミア、それは事実ではないよ」

「どうして⁈ みんな言ってるわ⁈」

「そのみんなを私に教えてくれ」

 そう言うと、フェルミア殿下は幼いながらによい記憶力で名前や所属などを説明し始めた。

「わかった、私が対応しよう。フェルミア」

「なぁに、お兄様」

「二度と私達の伴侶となるアトリアの悪口を鵜呑みにしてはいけない、彼は傷ついている者なのだから」

「どうして」

「父を奪われ、母を病で失ったのだから。お前も分かるだろう? 私達の母が亡くなった時の事を」

 今の王妃様後妻なのか。そういえば似てねぇなと思ってたよ。

「はい、覚えてます。昨日までお話できてたのに、急にできなくなってそして冷たくなって、吸血鬼になったわけでもない、死んだのを知って悲しかったです」

「アトリアはその悲しみをずっと一人胸に抱え混んでいるんだよ」

「……分かりました、では失礼します」

 私はすっと二階の自室に姿を消した。


「アトリア、いつ戻ってきたんだい⁈」


 なかなか戻ってこないであろう、私がいつの間にか自室に戻っていたのに、アルフォンス殿下は驚いていた。

「待て、アトリア。もしかして聞いていたな?」

 レオンが指摘した。

 私は隠しても無駄だと知り言った。

「はい、聞いてました。私が悪女とか言われている話や魔王を呼ぶ恐ろしい存在だと」

 私は苦く笑った。

「でも、事実だから仕方ないですよ──」

 最後まで言う前に、全員が私に抱きついてきた。

「み、皆さん!」

「大丈夫だ、アトリア。君を悪女とか屑男と呼ばせた連中は処罰しよう、そして魔王を呼び存在だと言った連中も処罰する!」

「ああねそうだ。お前は何一つ悪くないのだから」

「そうだぜ、お前が悪いといえば自罰的なところだ!」

「貴方は何も悪くない、私達が貴方を一方的に愛して婚約したんだもの!」

「そうよ、貴方が拒否しても押し切ったのは私達だもの!」

「だから誰にも否定なんてさせないわ!」

 皆の言葉に、私は目尻からつぅと涙を流した──





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