魔王シルフィーゼ~本当に魔王?それにしては弱すぎる~




 魔王の住まう居城への道を私達は魔物を蹴散らしながら騎士達と進んでいく。


 ちゃんと体術とかも真面目に勉強しててよかった──


 そんな事を頭の片隅で考えながら魔物を蹴散らして進んでいく。

 進んでいく毎に、聖ディオン王国の騎士達の亡骸が酷い様で地面に転がっているのを見て気分が悪くなった。

「アトリア、大丈夫ですか」

「はい、アルフォンス殿下」

 そう無理に笑って返事をすると六人にぽかぽかと叩かれた。

「⁇⁇⁇⁇」

「アトリア、無理をするとそうやって笑ってごまかすのは良くないぞ」

「そうですよ、アトリア、笑ってごまかさないでください」

「そうよ、アトリア。私だって気分が悪くなるんだもの」

「そうだお前は一般人だ、気分が悪くなって当然だ」

「そうよ、無理に笑わないで」

「また無理したら怒りますからね」

 と六人ともぷんすか怒る。

「……有り難うございます」

「アルフォンス殿下」

「分かっている進みましょう」

 再び行軍が再開される。


 城に着くと禍々しさがより増した。


 魔物が一斉に襲ってきた。

「此処は我らに任せて、あちらへ!」

 騎士団の一部がそう言うので彼らに任せて向かう。


 魔物を切り捨てながら、最上階を目指す。


 最上階手前、ヴァイエンがいると思ったら、居なかった。

「⁇」

「どうしたんだね、アトリア」

「魔王の護衛が此処にはいないんです」

「……確かに、もしヴァイエンが魔王化の手伝いをしていたら、ここに居るはずだろう」


 ヴァイエン。

 何を考えている⁇



 私は不安を抱えながら、扉を開いた。

 拍子抜けしてしまう。

 魔の力がそこまで感じられなかったから。

 これで負けて壊滅した聖ディオン王国……どんだけ弱いの?


「ふふふ、私の魔の力におそれをなしたわけね」

「いや、別に」


 思わず言ってしまう。

 すると、魔王は、魔王シルフィーゼは顔を真っ赤にして魔力を増大させた。

 けれども思っている程魔力がない。

 ならば──


魔の矢よマジックアロー!」

神の盾よローエイジス!」


 盾魔法で、防ぐ。

 上級魔法で、力の差を見せつける。


「そんな⁈」


「おかしいわ、私は魔王になったはずだもの」


「だって聖ディオン王国の連中は殺せたんだもの」


「なのに何でこいつは殺せない訳⁈」


 と地団駄を踏み始めた。


「勉強は真面目に受けておくべきでしたね」

 皮肉を込めて言う。


 そして私は、私に復讐心を持つ私にしか使えない魔法を使う。


復讐するは我にありヴィンディクタメアエスト‼」


 鋭い刃が魔王シルフィーゼの胸を貫く。

 本来、魔王ルートで使う技だが、こいつに使ってもいいだろう。


 本来のヒロインを、シルフィを殺したこいつになら。


 許せない、許しがたい。

 あんな無垢な子を自分の欲望の為に殺したこの女は。


 ごぷりと、シルフィーゼは血を吐き出した。

「うそ、うそよ……」


「ヴァイエン、いるんでしょう⁈ お願い出てきて」


「いやよ、まだ、死にたくない、死にたく……」


 そう言って魔王シルフィーゼは息絶えた、

 大量の血を流し這いずるようにしながら。


「……身勝手な女です、お前の妹だって死にたくなかったのにお前が殺したんだ」


 私はそう吐き捨てた。


 罪無き子が、身勝手な欲望で殺されるのは吐き気がする。


『やはり彼女ではこの程度ですか』

「⁈」

 ヴァイエンの声が響き渡る。

『まぁ、聖ディオン王国を滅ぼせたのでよしとしましょう』

「ヴァイエン貴様何を考えている⁈」

「そうだ、貴様何を考えている!」

『何を? それは勿論──』


『美しい復讐心をお持ちのアトリア様を魔王へと』


「絶対させんぞ!」

 アルフォンス殿下が怒鳴る。

『あなた達に防げますかね?』

「防いで見せますわ!」

『見物ですね』

 ヴァイエンの笑い声が聞こえて、城が揺れ始めた。

「崩れる⁈」

「急ごう‼」

 急いで皆で脱出する。

 全員が脱出を終えた後、城は崩れ去った。


「……」

 私の気持ちは軽くはならなかった。

「アトリア……」

「まだ私は狙われ続けるんですね……」

「私達が守るから……」

 不安を抱えながら私達は王都へと帰路についた。



 王都に戻ると、民衆に歓迎されたが、とても喜ぶ気にはなれなかった。



 魔王シルフィーゼの死体は運ばれていた。

 どのように魔王化したか調査するためだ。


 コルフォート男爵は爵位を返し、罰を受けると言い出したが、アルフォンス殿下がそれを許可しなかった。

「悪いのはあなた方ではない、シルフィーゼです」

 そう言った。


 そう、シルフィーゼがヒロインになろうとシルフィを殺さなければ何も無かったのだ。

 善良な両親の元幸せになれたかもしれないのに、その可能性を捨てたのは自分からだった。


 そして、シルフィーゼの取り巻きは平民に落とされ、学園を退学させられた。


 彼女、彼らはそこまでの事はしていないと撤回を求めた。

 だが、アルフォンス殿下達が──


「シルフィーゼの性格を利用して取り入り、多くの生徒に危害を加えていたことは調査結果で分かっている、故に貴様等はシルフィーゼ同様である。家の方にも連絡をしている、その後の処分を待つといい」


 と、言った。

 平民が貴族に暴力を振るったとなれば相当重い処分がこれから待っているだろう。

 彼ら、彼女らは哀れだが、シルフィーゼと共に多くの学生に危害を加えたのなら仕方ない。





「……」

 魔王シルフィーゼは居なくなった。

 だが、ヴァイエンが居る限り私の魔王ルートはまだ存在している。

 ヴァイエンは何故彼女を魔王にしたのか。

 もしかしたら聖ディオン王国を亡国にすることが目的だったのか。

 分からない、答えはヴァイエンしかしらない。


 夜風に当たり、ベランダで一人遠くを見つめる。

「シルフィ、貴方が生きていたら、私はどうなっていたのでしょうか」

 そう呟くが、答えは返ってこない──






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