貞操の危機と復讐心~魔王にはならないけど復讐させろ!~




「誰だ⁈」

 黒いコウモリのような翼が生えた、なんというかインキュバスチックな男が現れた。

 ヴァイエン、主人公が退治するか、アトリアが復讐をやめる決意を固めない限り魔王にする厄介なキャラだったはず。

「初めまして、私はヴァイエンと申します」

「……私に何のようだ?」

「復讐したいのでしょう?」

「お前には関係ない」

「いいえ、関係ございます」

 ヴァイエンは私に一瞬で近づき押し倒した。

「貴方のような方が魔王にふさわしい」

「断る、私は魔王にはならない!」

 ぜってぇ嫌だ、魔王にだけはならねーぞ!

「仕方ありません、では犯してを憎しみを増大させてあげましょう」

「ぎゃー‼ 誰か助けて犯される‼」

 そう叫んで抵抗すると──

「何者だ!」

「魔の者! 私たちの生徒から離れなさい」

 少しして、職員の方がやってきた。

「……ちっ、仕方ないこれでは分が悪い。引きましょう」

 そう言って姿を消した。

 私は乱れた寝間着を整えようとするが、怖くて上手くいかなかった。

 女性職員が私の寝間着を整え抱きしめてくれる。

「怖かったでしょう? もう大丈夫よ」

「しかし、魔の者が現れるとは……心当たりは?」

「……教授の中に私の父を殺した者がいるんです、復讐したいかと問われなら魔王になるよう言われましたが拒否したら犯されそうに……」

「魔の者は犯した相手の感情を増幅させるからな、特に憎しみを」

「憎むのは辞めてとは言わないわ、よく抵抗して頑張ってくれたわね」

 復讐を完全に肯定はしてくれなかったが、職員達の心遣いが私には嬉しかった。

「ただ、奴も諦めてはいないだろう」

 だよねー。

「王宮に連絡して護衛をつけよう」

 護衛?

 疑問に思う私は首をかしげるだけだった。


 翌日。

「今日から殿下ではなく、お前の護衛をすることになった」

 お前かーい‼

 レオンが不服そうな顔で私を見ている。

「あ、あのー……アルフォンス殿下の護衛は?」

「アルフォンス殿下なら本来護衛は不要と言って居たところに私が無理矢理護衛になっていたのだ、だから正式に護衛をすることになったのはお前だ」

 まじかよ、無理矢理護衛していたのかよ。

 ゲームでは知らなかった情報がここででてきたぞ。

「護衛するにあたり、二人部屋に移って貰う、俺の目が黒いうちは復讐も魔王になるのもさせんぞ」

 畜生、復讐はしたいのに。

 そうして二人部屋に引っ越しさせられ、朝食も隣で食べているのを監視される。


 プライベートな時間を返してくれ‼


 講義があるので講義に向かい、隣に座られる。

 なんかレオンが隣に座ったらアルフォンス殿下達の笑顔が怖い。


 講義が終わり、今日はこれで終わりだし図書館にでも行こうかなと思っていると──

「アトリア君!」

 奴が来た。

「魔の者に襲われそうになったと聞いた、大丈夫かね⁈」

「──貴方には心配されたくはありません、私の父を殺した貴方には」

 私は冷たく突き放し図書館へと向かう。

「クリス・アルフレイン教授が貴様の父の仇か」

「そうですよ」

「殺す気か?」

「まさか、ただ後悔の海で溺れ死んで欲しいだけです」

「……自殺誘導か」

「お好きなように捉えてください」

「何故教授が仇だと分かった」

「──私をスカウトした時に問いかけたのですよ、『ティーダという吸血鬼を殺した事はあるか』と」

「お前の父の名か」

 レオンは淡々と問いかける。

「ええ、そして事実だと知ったとき、母は激怒しました。発狂寸前だったと言ってもいいでしょう。父の形見である砕けたブラッドストーンを今も肌身離さず持っているのですから」

「ブラッドストーン……吸血鬼のもう一つの命か」

「ええ、私赤ん坊の時の記憶がありましてね、砕けたそれを見た母の光景をよく覚えています。だから憎いんです、あのまま家族として暮らしていたら、母は体も壊さず、精神も弱らずにすんだのに、と。」

 私は冷ややかな笑みを浮かべて淡々と思った事を述べる。

「教授は後悔している」

「後悔? のうのうと生きてて後悔ですって? 笑わせないでください」

 私は怒りをあらわにした。

「後悔しているなら、生きているのが辛い程に苦しんで欲しい、奴はそれがない! 私は奴を許しはしません!」

 そう言ってレオンと距離を取り猛スピードで図書館に向かった。

 怒りを表に出しすぎると何をするかわからなかったから。



「今日はこの本を借りようか……明日の講義に役立ちそうだし」

 と言って本を手に取り、貸し出し許可をもらいに行く。

 貸し出し許可を貰い、中庭に向かう。


 中庭に向かうとアルフォンス殿下が居た。


「……アルフォンス殿下」

「多分部屋には戻らないと思ってここに来ると思ったのです」

「……何のご用でしょう」

「少し話がしたいと思い」

 何の話だろう、一体?

「クリス教授が貴方の父の仇なのですよね」

「……ええ、そうです」

「彼は十分罰を受けてきましたよ」

「え?」

「無実の吸血鬼を殺した事を罰せられ、母子から父を奪った事を罰せられ、そして今いるんです」

「……でも私にはそんな事は関係ない、私と母はそれを知らないのですから」

「アトリア……」

「そんな事があったと事実を聞かされても、私たち母子は見ても聞いてもいないのです! 母は精神を病み、体を壊しました。あの男が父を殺したと知った時母はあの男を殺そうとまでしたのですよ、まともに動けない体で!」

 いつの間にか私は泣いていた。

「罰されたなんて言われても納得できるものですか……私は私の目で奴が後悔しその果てに裁きの海で溺れ死ぬところを目にするまで納得できない!」

 嗚咽をこぼした。


 そう納得できる訳がない。

 罰せられたと言われても納得なんてできない。

 私たちはそんなこと知らなかったのだから。


「アトリア……」

 アルフォンス殿下が涙を拭い、そして口を近づけてきて──


「「「「「ちょっと待ったー‼」」」」」


 五人が物陰から姿を現した。

 え、いつからいたの?


「アルフォンス殿下! 抜け駆けは無しと言ったのは貴方様なのに抜け駆けとはどういうことですの⁈」

「そうです、アルフォンス殿下‼ お……私達は平等にアトリアに接しようと約束したはずです‼」

「な、何ですの⁈ 殿下はアトリアにそういう気持ちを⁈ わ、私だって‼」

「アルフォンス殿下、いくら何でも抜け駆けはずるいですわ‼」

「アルフォンス殿下‼ そやつは危険です‼ 魔の者に狙われる程復讐心を持っているのですよ‼」

「「「「あ゛?」」」」

 一人だけ主張が違うレオンに、他の四人が睨み付ける。

「レオン、いくら君でも言っていいことと悪い事があるよ?」

 アルフォンス殿下、笑ってるけど、目が笑ってなーい!

 こええー!

「ですが、事実魔の者に……」

「それを防ぐのが君の役目だろう、君がそう言う態度ばかり取るなら別の者にアトリアの護衛を任せる」

「いえ、それは……‼」

「ん? じゃあそのような文句を言わず任務を果たしたまえ」

「は、はい!」

 なるほど、レオンはアルフォンス殿下好きなのかな、納得。

「アルフォンス殿下、抜け駆けの件はどうなんですの⁈」

 フレアがアルフォンス殿下を怒鳴る。

 これ不敬罪とかなったりしないかなー、大丈夫なのかなー?

「いやいや、つい、ね」

「「「「つい、で済むわけがないでしょう!」」」」

 え、何。

 私五人から恋愛感情抱かれてるの?


 ちょっと待ってよ神様!

 いるなら返事して!


 と、言っても返事なんて無く、私は混乱するばかり。

「ところでアトリア、明日休日だけど君は何をするつもりだい?」

「外出届けを出して、母の様子を見に行くつもりです」

「そうか、同伴してもいいかな」

「え゛」

「ちょっとだから抜け駆けは無しと言ってるでしょう! アルフォンス殿下‼ アトリア、殿下が同伴するなら私達も同伴させなさい」

「いや、同伴させるとはいって……」

「同伴させてくれますよね」

 圧が来た。

「……はい」

 小声で私はそれを受け入れてしまった。

 かなり後悔。


 明日、どうなるのか、一体──






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