学園に入学~魔王ルートは阻止、でも復讐はしたい~




 そして、翌日、大衆食堂で働いていると奴がやってきた。

「アトリア君」

「なんでしょうか?」

「どうか、学園に来てもらえないだろうか。学費もタダにするし、君と母君の生活費は国から出してもらうようにする。勿論その間母君の世話も任せよう」

「……」

「私は、君のようなダンピールにこそ、同じような目にあった子の傷が癒やせるとおもっているのだ」

 どの口がほざく。

「いいでしょう……」

「本当かね⁈」

「ええ、宜しくお願いします『私の父を殺した先生』」

「……‼」

 私の言葉に奴は目の色を変えた。

 そして口を噛みしめてから口を開いた。

「ああ、宜しく……迎えは明後日に行くからそれまで準備を」

 そう言って奴は立ち去った。

「──と、言うわけで大将さん、今までお世話になりました」

「いや、いいんだよ。しかし、まさかクロスガードの教授がお前の親父さんの……」

「仇は討ちませんよ?」

「許すのかい?」

「許しはしません、ですが討ちません」

「そうか……とにかく、頑張れよ」

「はい」

 私はそう言って大衆食堂を後にした。



「──と言うわけだから私は行ってきますね、母さん」

「アトリア」

 私は母と抱き合う。

「復讐もいいけど、貴方には幸せになって欲しいの」

「有り難う、母さん」



 そして二日後、母の世話をする人と、学園までの馬車がやってきた。

「では、母の世話をお願いします」

「畏まりました」

「アトリア、元気でね……」

「はい、母さんも……」

 再び抱きしめあい、私はこぎれいな格好をして馬車に荷物を持ち込み乗った。

 馬車が走り出す、私は母の姿が見えなくなるまで、顔を出した。


 やがて、学園に到着すると、職員の方々がやってきた。

「ようこそ、アトリア・フォン・クロスレインさん! クロスガード学園へ」

「どうも……」

「では早速採寸に向かいましょう」

 そう言って採寸する場所へ連れて行かれる。

 採寸が終わると、裁縫魔法で制服が数着作られる。

 春・秋用、夏用、冬用が二着ずつだ。

「汚れたら学内の洗濯室へと持ち込んでください、職員が洗いますので」

「分かりました」

「他に何かありますか」

 そう言われて、私はあることを口にした。

「私の父親を殺した元ハンターの教授がこの学園にいるのですが」

 職員は目を見開き、そして考え込み、口を開いた。

「わかりました、なるべく会わないようにします、名前は分かりますか?」

「クリス・アルフレインです」

 奴の名前を言う。

「分かりました、ではそのように対応します」

 職員はそう言って他の職員に耳打ちし、他の職員はどこかへ走り去った。

「では、寮へ向かいましょうか」

「はい」


 学生寮へ連れてこられる、一人一部屋らしく空間魔法のおかげか広くなっている。


「普段は防音ですが、悲鳴や助けを呼ぶ声などの場合は部屋から響くようになってます」

 なんという便利仕様。

「では、お着替えを」

「はい」

 春用の制服に袖を通す。

「ちょうど今日から授業がはじまるので行きましょうか?」

「はい」

 そう言って学園の方へ案内される。


「席は自由だから、好きな場所を」

「はい」

「頑張ってくださいね」

「有り難うございます」

 私は人の少ない場所へ行き、その席に座る。

 皆前に座っているので後ろは空いていて気が楽だった。


「では、今日から授業を始めます。まず最初にこの植物はある事をすると、凶暴化します。それは何かな? アトリア・フォン・クロスレインさん」

 げ。

 当てられた。

 でも、あの植物は見覚えがある。

「ダンピールの血を与えると凶暴化して周囲の生き物を捕食する、で合ってますか」

「その通り! 正式名称ヴァンピレラ。別名ダンピール食いという植物です。ですのでダンピールの学生は近寄らないように、またダンピールの血を面白半分で与えないように! 見つけたらすぐ学校に報告を!」

「「「「「「「はい‼」」」」」」」

 学生達が元気よく返事をする。

 私はそれに若干圧倒された。

「では次は──」

 授業は滞りなくすすみ、次の授業でも、前世のゲームの知識がよみがえったのか問いかけや問題にすらすらと答えることができた。


 好きなゲームだっただけある。


「おーい、アトリア、だっけか?」

「はい……何でしょう?」

 学生に声をかけられ、静かに口を開く。

 できれば関わりたくない。

「お前スカウトされたんだってな、それだけの知識があるって何かしてたのか?」

「いえ……母の看病の合間に本を読んでいただけです」

 ちょこっと嘘をつく。

「お袋さんは?」

「看病してくださる人が来てくださったので……それでも様子を休日とかに見に行きたいですが」

「それならちゃんと外出申請しとくんだぜ」

「外出課ってところがあるから案内してやるよ」

「いえ、その……」

「何をしてるのだね?」

 薄い金色の長い髪に赤い目の美しい男性が現れた。

「アルフォンス殿下!」

 げ、この国の王子じゃん、攻略対象。

「いや、案内しようとしてるですが本人が断って」

「では私が案内しよう」

「え?」

「それでいいかな、アトリア・フォン・クロスレイン」

「えっとその」

「王子様の言う通りにしとけって」

 学生が小声で言うので、私は頷くと、王子様アルフォンスは私を外出課に案内した。


 それから次いでと言わんばかりに学園中を案内してくれた。


「アルフォンス殿下は学生全員を把握しているんですよね?」

「勿論?」

「その、今年入学した生徒にシルフィ・コルフォートと言う学生はいますか?」

「? 居ないよ、名前からして女子学生だよね。君の知り合いかい?」

「ま、まぁ……」

 言葉を濁した私は焦る。


 主人公のシルフィ・コルフォートが居ない?


 おかしい、乙女ゲームの世界のはずだ。

 実際、出会った人物などは多分違いない。

 なのに何故──


 彼女がいない?


 もしかして、この世界はシルフィ・コルフォートが居ない前提で進む世界なのか?

 だとすればどうなるか分からないぞ?

 どうしよう。


「アトリア?」

「は、はい何ですかアルフォンス殿下」

「同じダンピールなのだからアルフォンスと呼んでくれないか?」

「え?」

 いやいや、無理無理。

 不敬罪に相当する。

「む、無理です。すみません」

「そうか、ではアルフォンスと呼ばれるよう努力しようか?」

 ん?

 今の台詞、ダンピールはともかく後ろは主人公が言われる台詞だぞ。

 ははは、まさかな。


 ……まさかな。


 嫌な予感を抱えつつ、私は寮へと戻った。


 寮の自室に戻り、服を着替えベッドに横になる。

「疲れた……」

 まさか初日でアルフォンス殿下に話しかけられ、しかもヒロインが言われる台詞を言われるなんて思いも寄らなかった。

 あのゲームはゲームとしての完成度が高くてやった乙女ゲーだが、恋愛感情が分からない私は攻略本を片手に攻略していた。

 攻略本とサイトを幾度も読み込んで、そして必死に三名という少ないキャラだが攻略したのだ。

 勿論魔王ルートも攻略した、敗北エンドも勝利エンドも見た。


「魔王ルートに行かないよう努力しつつ、復讐もこなすだけだ」

 私はそう決意して、明日の授業に備えて準備し、そして眠りに落ちた──






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