第6話
堕落勇者の立ち上がり
第6話「見られない場所で」
話しが終わりどうするべきなのかを考える、そして商人は引き返すよう言いお礼金を渡した。商人は金を受け取るとすぐに逃げて行く、五人は食料を盗み食いしたのがバレなかった事に安堵する。
そして残りは自分達の足で向かう事になった。相当な距離があるが無関係な人を巻き込むのだけはやってはいけない。
「めんどくさいー」
「しょうがないよ、頑張って歩こう」
そう言いながらアルスは植物を採ったりしている。基本的に解毒剤になるとされている植物を中心に採集している。ラックも医者なので解毒剤の為の草だと言うのは分かっていた、そしてアルスでも知らないような解毒草を採ってどんな性能なのかを説明しながら歩みを進めていた。
「ラックって頭いいんだね!」
「一応医者だぞ」
「医者って頭いいのー?」
「逆にそんなことも知らんのか。そりゃ知識がなけりゃ薬も出せないし病名さえも分からないぞ」
「そうなんだ..私の出身って医者もいないような貧民街だったから知らなかった」
「そうなのか?初めて聞いたがそんな場所に住んでたんだな」
「そうなんだよー」
そんな話をしつつ歩き続けた。道中の雑魚モンスターなどはアルスが全て斬り倒していた。そして数時間経ち日が暮れて来た、今日は適当な場所で野宿することになった。ラックが地図を見て明日には到着するだろうと伝えてから眠りについた。
「寝ちゃった、今日は私が見張りしてるからみんな寝ていいよ!!」
「すまんな、頼むぞ」
「よろしく、リリア」
「頼んだ。それじゃあ俺は寝るよ」
リリアを残して全員眠りにつく、明日には到着と言う事で皆少し不安を抱えていたが眠ってしまえばそんな気持ちは消えてしまうのだ。リリアは睡魔に耐えながら一夜を明かそうとしたがもうそろそろ日が昇り出す頃、一人の魔人がリリアの背後に立った。すぐに振り返るとその魔人は昼に猫魔人の居場所を聞いてきた軽装の女騎士だ。
「来るのか?城に」
「行っちゃ悪い?」
「...はぁ..まぁいいだろう。それではその事を伝えに行かなくてはならないので失礼する」
そう言って姿を消した。リリアは深刻そうな顔をして俯く、するとアルスが目を覚ました。そして眠そうにしながらも何かあったのか訊ねる。リリアは秘密にしておいてほしいと前置きをしてから女が来たことを伝えた。
「えぇ!?それでリリアは大丈夫だったの..?」
「うん、私は大丈夫だった」
「よかったぁ」
「それよりアルスはもうちょっと寝なよ。疲れてるでしょ?」
「そうだね、見張り引き続きよろしく」
アルスはそう言って再び目を閉じた。そして暗い空の下一人になったリリアは脳内である事を決意した。もしかしたらアルス達と離れ離れになってしまうかもしれない、だがアルスも自分の役目を果たそうと決心したのだ旅に引きずり出した自分が決意出来ないなんて酷い話だ。リリアは今回死んでもおかしくない、そんな因縁があるのだ。だがアルスさえ生きていればなんとかなる、そう思い自分の事は後回しにするのだった。
「私もやらなくちゃいけないんだ、頑張ろう」
そう呟くと同時に日が昇りだした。常に光を放つ星を眺めていると光に当てられたラックが唸りながら目を開く、そして見張りをしていたリリアに礼を言ってから散歩をしに行った。
そして数分で戻って来たラックは他のみんなも起こす。全員起こすとすぐに出発すると言って立ち上がった。
「もういくのか..?」
まだ眠そうなバリゲッドを無理矢理立ち上がらせ歩かせる。ゴドルフィンは全く眠くなさそうだ、そして戦闘はラック、最後尾にバリゲッドの順で一列になって小山を登る。既にカリアストロに突入している、もうここまで来ればいつ魔人やモンスターが襲ってきてもおかしくはない。皆最大限警戒しつつ進んでいく。
そして山頂に来た時ラックが足を止めた、構わず歩くアルスの腕を掴んで止めた。
「何?」
「よく見ろ」
そう言って下った場所を指差す。そこには自然に生成されたとは思えない程大きな渓谷があった。このまま進んでいたら滑って転落していただろう。
「ここからは全員慎重に行けよ、まぁ俺とゴドルフィンは先に行くがな」
そう言って二人は山を走って下山し山の麓の途中から出来ている渓谷を飛び越えた。凄まじ跳躍力だ、それを見たアルスは真似をして走って渓谷を飛び越えた。
「待ってよ~」
リリアとバリゲッドも慎重に下りて渓谷の前まで到着する。だがここからどうするかが問題だ。二人には飛び越えた三人のような身体能力は無い、なので渡る事が出来ないのだ。
「どうしようかな」
「どうしような」
悩んでいるとリリアが良い案を思いついた。リリアは『マンハッタン』を使用し木を切り倒した、そしてそれをバリゲッドに移動させ橋にして対岸と繋いだ。そして落ちないように慎重に一人ずつ渡った。無事渡りきるとラックはさっさと歩き出す。
「魔王国はやっぱ山が多いな。後空気がクソ不味い」
「そうー?普通じゃない?」
「お前ホントに酷い場所に住んでたんだな」
「まぁね!」
ドヤ顔で言うリリアを無視してどんどん進んでいく。そして少し進むとある建物が見えてくる、山に遮られているせいで少ししか見えないが魔王城だ。
外見は普通だが凄くデカいように見える、そして周囲は高い山に囲まれている。
「やっぱでけぇな」
「そうじゃな」
「ゴドルフィンさん達の時と変わったないんですか?」
「あぁ。魔王城は壊れた個所を修復以外は変えないらしい、そう前魔王が言っておった」
ゴドルフィンはそう言って魔王城を見つめる。二十年前と何も変わっていない城、風景、そして惨状だ。魔王城の周辺には飢餓で苦しむ魔人やモンスターが魔王に助けを乞おうと集まっている。
「あれは何?」
「言ったじゃろう、魔王国の住民でも助けを求めてくると。その事じゃ」
アルスはあまりに酷い状況を見て言葉を詰まらせた。魔王を倒せばきこの惨劇も一時的には収まるだろう、そう思うと一刻も早く倒さなくてはいけないと思った。だが今魔王に勝てる自信は無い、このモンスター達にはもう少し耐えてもらおうと思い足を動かす。
「さてもう少しで着くが前と変わってないなら..」
魔王城の手前まで来てラックがそう言いかけた瞬間土煙に包まれる。やはり何も変わっていなかった、城に入る前の力試しだ。
ラックの目の前にはとても大きな亀が現れた。そしてその亀は口を開き人国語を流暢に話す。
「来たか。だがまずはわしを倒さなくてはここを通すわけにはいかん」
「あぁ。前来た時はあいつとアレキサンダーがやっちまったからやりたかったんだよ」
そう笑いながら攻撃態勢に入る。他の四人も攻撃態勢に入りいつ攻撃してきてもいい状態になった。その瞬間亀が口を開く。そして大きな岩を吐いた。だがバリゲッドのギフト・ソードで防ぎ誰も傷を負わなかった。
「その程度の攻撃じゃ俺の盾には勝てないぞ!!」
「ふむ、少し力を強くしよう」
そう言って次は口から火を吐いた。盾では全員防ぐ事は出来ない、だがリリアが魔法を唱える。
『アゼッタ』
すると皆を取り囲むような形で水の柱が現れた。そしてその水は非常に強固で亀の炎を全て打ち消した、だが亀は水によって見えていない事を逆手にとって静かに岩を吐いた。だがアルスが驚異的な身体能力の一つ、聴力によって岩が来ていることに気付き剣を抜いて真っ二つに斬った。
「残念、僕が勇者だ」
消えていく水の柱の隙間から顔を覗かせながらそう言った。亀は勇者の背格好を見て納得した。そしてもう少し力を増してから次の攻撃を行う。
次は岩を大量に吐いた。アルス一人ではカバーしきれない、だがそんな岩ぐらい全員対処できる。リリアは『マンハッタン』で、ラックはパンチで、バリゲッドは盾で防いで、ゴドルフィンは剣で粉々に砕いた。アルスは地面を強く踏みジャンプをして避けた。
「思っていたよりやるではないか、それではわしも本気を出そう」
そう言って亀は立ち上がった。だがアルスは不安定な状態で立っているのだから足を斬ってしまえば倒れるだろうと思って距離を詰め足を斬った、はずなのだが手応えが全くない。もう一度斬ってみると足はアルスの剣でも斬れない程に硬く弾かれていた。
「何!?」
「残念だったな」
そう言って亀は斬られた方の足でアルスを蹴飛ばした。何十倍もの対格差があるのにも関わらず本気の蹴りをくらったアルスは動かなくなった。すぐにリリアが駆け寄りヒール・アメイジングをかけはじめた。
そして三人はどう倒すか悩む。前勇者の仲間である二人は倒し方自体は知っている、だが今のメンバーで出来る方法ではないのだ。
「あいつは舌を斬ったら気絶した。だがあいつのギフト・ソードがあったから勝てた。俺らには今空を飛ぶ手段は無い、だからどうにかしてあいつの口をゴドルフィンが届く距離まで下げなきゃいけない」
「そんな事が出来るかな」
煽ってくる亀を無視してラックはある方法を思いついた。だが結構ハイリスクかつ失敗したら全てが無に帰す事になる、だがアルスが動けない以上やるしかないと決め二人に小さな声で作戦を伝えた。二人共作戦内容に納得し動き始めた。
「ゴドルフィンは定位置に!」
「分かっとる」
そう口に出す時には既に移動が終わっていた。ゴドルフィンは亀の右手側でスタンバイしている、亀はどういう作戦なのか不思議に思ったがまずゴドルフィンを潰そうと足に力を込める。すると左手側からラックが殴り掛かって来た、人間の生身の攻撃など痛くないだろうと思っていた。だが実際には凄く痛い、全く響かず跳ね返すことが出来る剣と違い思い衝撃が全体に響く。
「どうだよ、俺の拳は」
ラックはそう言いながら何度も殴ったり蹴ったりを繰り返す。流石に体勢を崩しそうになった亀だったがすぐに立て直し左足に力を込めて蹴った。だがラックは軽々と避け反撃をくらわせた。亀は苛立ち最も葬って来た数が多い技を繰り出す。
「死ねぇ!!!」
まず大量の岩を吐きラックが逃げられないようにする、そしてそこを踏みつけた。確実に死んだ、そう確信して踏みつけたが何故か岩まで足が届かない。
「どういうことだ!?」
「簡単だ、俺が持ち上げてる」
そう、ラックが馬鹿力で亀の足を持ち上げ踏みつぶされないようにしているのだ。だが反撃は流石にリスクが高すぎるので足を押し返した後ジャンプして岩の包囲網から抜け出した。
亀は渾身の技が効かなかった事に非常に腹を立てている、だがラックはずっと冷静で組み立てた作戦に沿って行動を続ける。
「次は何してくるんだぁ?まぁ何も俺には通用しないけどな!!」
その分かりやすい煽りにも亀は乗ってしまう。苛立ちを隠せない様子で蹴りをくらわせようとする、だがラックはひょいひょいと避けて煽り続ける。亀は大きな声を上げながら思いっきり蹴った、だが今回はラックは避けない。仕留めたかと思ったその時バリゲッドが間に入り全力で受け止める。
「よくやった、ナイスファイト」
ラックはバリゲッドの頭を踏み台にして超高くジャンプした。そして片足を使えずバランスを崩しかけている亀の脇腹を思い切り殴った、すると当然亀は倒れる。
「爺(じじい)!!」
「分かっとるわい」
亀はゴドルフィンの方へ倒れて行く。ゴドルフィンは冷静に剣を握りしめ跳び上がり亀の口内にある舌をぶった斬る。亀は奇声を上げながら白目を剥き気絶した。
「ナイス」
「良かったぞ、バリゲッド」
「ありがとうございます!!」
そして亀を討伐した事により魔王城に入る事が可能となった。だが三人とも魔王城の入り口ではなくアルスの元へ駆け寄る。そしてラックがさっさと止血をしてリリアは再度ヒール・アメイジングをかけ続けた。
「うぅーん...」
百八十秒程経過するとアルスは目を覚ました。体を起こしたアルスにラックが説教をする。
「あまり一人で突っ込むんんじゃない。せめてバリゲッドと一緒に突っ込んでくれ」
「ごめん..ところで亀は?」
「あそこ見ろ」
ラックは後ろの方を見るようアルスの頭を動かした。そして倒れている亀を見たアルスは勝利したのだと理解した、そして皆に謝罪した。だが誰も責めることは無く早く城に入る事を優先する。
「覚悟はできてるか」
「できてるさ」
「出来てるよ!!」
「できておる」
「あぁ、行こう」
ゆっくりと扉を開く。中は思っていた以上に綺麗かつ洒落ていた。ラックは常に戦闘体勢で息を殺して進む。いつどこから部下が殺しにかかってくるかは分からないのだ、アルスに関しては剣を抜いて歩いている。
「何もないな」
色々な部屋を回った。食堂や厨房もあったし空の部屋や客室も何部屋かあった。だがどこにも誰の姿もない、それどころか足音一つ聞こえない。何か嫌な予感がしたラックはある提案をする。
「なんか誘導されている気がする、二手に分かれよう」
「どうやって分かれるの?」
「俺とリリア、そしてお前ら三人だ」
「えー私もアルス達とが良いー」
「まぁラックが言うんだから従おうよ。僕たちはこっちに行くから気を付けてね」
アルスは妙に冷静に分かれて行った。少し不機嫌そうなリリアを連れてラックも反対方向へ行くと思いきや正面の部屋にリリアを押し込んだ、そして自分が扉側に立ちリリアを閉じ込める。
「何?どうしたの急に」
「お前だって分かってるだろ」
「...」
「いい加減聞かせろよ、前言ったよな。魔王城に行ったら言うって」
「今じゃきゃ..ダメ?」
「駄目だ。今言え」
そう言われるリリアだが全く口を開こうとしない、それどころかそっぽを向いてしまった。ラックは苛立ちリリアを睨みつける、次第に気まずい雰囲気が流れる。
「早く言えよ、お前の出生」
ラックが聞きたがっているのはリリアの出生だ。ラックは過去に聞いた話を繋ぎ合わせて大体の予測はついていた。だが自分の口では言う気は無い、リリア本人に言ってほしいのだ。
だが当の本人は喋る気が無い、ラックは諦め溜息を吐いてから部屋を出た。
「しょうがない、行くぞ」
ラックはそう言ってリリアの腕を掴み無理矢理引き連れる、そして近くの部屋を全てチェックしていたその時だった。ラックの背後からある者が剣を突き立てる、ラックは大人しく手を上げた。
「それでいい」
「そんでなんだよ、話か?」
「いいや違う、お前らの目的だ」
ラックは殺害目的ではないと知ると手を降ろし振り向いた。そこにいるのは先日会った仮面を被っている女だ。
「いやー俺はお前の顔のパーツが一つでも見てみたいよ」
「目的を話せ」
「さぞかし美人なんだろうな」
「目的を話せ」
「...剣を返せよ、クソ野郎」
「お前のギフト・ソードは私が奪ったはずだ。返すわけがないだろう」
「そうだよなぁ...どうしたもんか。ここにはアルスの剣もあるだろうに」
ラックがそう言うと女はアルスと言う名に反応し勇者の事かと追及しようとする、だがラックは全く関係ない事を話し出した。まともに会話が成立していない状態にキレた女はレイピアを喉に刺そうとする、だがラックがそれを止めた。
「お前は言われてるだろう?誰も殺すなと」
「...だとしたら何なんだ」
「じゃあリリアも殺せないな、まぁもういないがな」
「何!?」
女はリリアがいたはずの場所を見る、だがリリアは姿を消していた。今までの適当な会話は女の意識をこちらに向けるためのものだったのだ、てあの部屋に閉じ込められた時にラックは既に女に目を付けられている事を察知していた。そしてリリアはある物をひそかに渡されていた。
その渡されたものとは紙切れだ、そしてその紙切れにはこう書いてあった。
『俺が気を引くから行け。場所は分かるだろ。剣を取り戻しに行け』
リリアは全速力で走って剣がある部屋へと向かっていた。女もそれを察知しリリアが言っているであろう方向へ走り出そうとする、だが腕を掴まれ移動できない。
「やろうぜ、時間稼ぎだけどよ、楽しませてやるよ」
もうラックはノリノリだ。一方女は焦りに焦っていた、だがラックのスピードでは逃げ切れない。やるしかない、一秒でも早く殺してリリアを止めなくてはいけない。だがこの怪物ラック・ツルユを目の前にしてそんな一瞬でかたをつけるのは無理だ。そう確信していた、そしてラックは勝ちを確信していた。
「俺らの勝ちだ、馬鹿女」
第6話「見られない場所で」
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