ジャスコじいさん

きょうじゅ

ジャスコじいさん

 おや、こんなところに旅人さんとは珍しい。


 キャンピングカーなんか引っ立てて、こんな田舎の州のそのまた外れまで、よういらしたね。


 わしの名はジャスコ。見ての通りこの丘の上で、雑貨店と食料品店とレストランを兼ねたガソリンスタンドを経営している。そうさな、アイゼンハウアー閣下が大統領になったばかりの頃からだから……もう何十年になるかな?


 だいたい、こんなところで暮らしていると、世情に疎くなっていけない。今の大統領はなんという人がやっているのかね。なに、ドナルド・トランプ?


 はっはっは、ひとを老いぼれだと思ってからかっちゃいけねえよ。ドナルド・トランプってのはあれだろう、有名な大金持ちで、テレビとかに出ているあいつだろう。そういう冗談は、レーガンのやつが大統領になったときだけで沢山ってものさ。


 おう、ガソリンだな。レギュラーを満タン、それだけでいいのかね。腹は減っておらんか? コカ・コーラがあるぞ。ビールも冷えてる。食事はたいしたものはできないが、アイス・クリームならあるよ。


 ……なに?


 この近くにショッピングセンターはないのか、って?

 それはもちろん、うちのことだ、うちがそうさ、と言いたいところだが。


 実はな。あったことがあるんだ。昔、このあたりに、イオンと呼ばれるでかいショッピングセンターができたことがあるんだ。


 そりゃあ、小さな町のことだからね。大騒ぎになったよ。みんなそこで買い物をして、そこで働いて。遠くの町からマイカーで来る客たちの相手をして、銭を稼いで、日々の暮らしを送ったのさ。


 だがな。長くは続かなかった。


 イオンのせいで、古くからあった店はうち以外みんな閉めてしまった。そして、そのあとで、イオンは店を閉めると発表した。


 そりゃあ非難轟轟だったさ。だが、こんな小さな町の住人たちが、大企業を相手にどうすることができたと思う? 結局、イオンは潰れて無くなった。住人たちは暮らしていけなくなり、ほうぼうへと散っていった。


 あとに残ったのは、丘の上のこの小さなガソリンスタンドが一軒だけというわけさ。


 ああ、やっぱりアイス・クリームを注文する?

 そりゃあありがたい。ストロベリーとチョコレートがあるが、どっちにするね?

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