第8話 逆悩み相談

「それで相談って、何でしょうか?」


 副長とリジーは食事を注文した後、俺の話に耳を傾けてくれた。


 副長は疎か、リジーも真面目に聞いてくれている。


 何と有難い事だろう。


「実は人を探してるんだ」


「はて。シアならばすぐに見つけられるのでは?」


 副長の言いたいことはわかる。


 占い師なんだから失せ物、探し人なんてすぐに見つかるって思うよな。


「残念ながら自分に関することは占えないんだ。だから二人にお願いだ」


 俺は頭を下げた。


「真面目で優しくて、しっかりと働いている、結婚に適した男性がいたら教えてほしい」


 その言葉を聞いて、副長は目を丸くし、リジーは持っていたフォークを落とした。


「結婚に適した、男性?」


「そう。一緒に居て安らげる、そんな人がいいんだが」


 リジーと副長は何やらひそひそと話し始める。


 そんなに無理難題な条件だっただろうか……いや、確かになかなかいないかもしれないな。


「真面目で優しくてしっかり働いている……そんな条件の人は程々にいますけど、会ってどうするのです?」


 いるのか?!


「会って、もしもいい人ならばそのまま結婚の話を進めたい!」


 副長とリジーは苦い顔だ。


「意欲があるのは良い事ですが、結婚するならばお相手は女性がよろしいかと」


「何故?」


 お嬢様が女性と結婚?


 そんなの有りなわけ……いや、有りかもしれない。


 しかし現実問題無理だろう。


 お嬢様を思えば、貴族の身分を持つ者という条件も必要だな。


「女性は対象じゃないんだ。そうそう、それプラス貴族だと有難いな」


「貴族の男性……そんな好条件を望むなら、こちらも相当いい条件を提示しないと無理だと思いますよ」


「大丈夫。会えば絶対に気に入ってもらえるから」


 どんな男でも、ひと目会いさえすれば、お嬢様の可愛らしさと優しさに惚れる事間違いなしだ。


 それに伯爵令嬢ならば殆どの貴族が了承してくれるはず。


「凄い自信」


 リジーが少し引く仕草をしている。


 そうだろうか?


 お嬢様程の女性ならば惚れるものは多数だと思うのだが。


「それにしても……シアさんが男性好きとは知らなかったわ」


 ? どういう事だ?


「人の好みに言及したくはないけど、正直驚きましたね。男性が男性と結婚するという事例は聞いたこともないし。まぁどこかの国で許されると良いのですが」


 男と男? 一体誰の話をしてる?


「よくて愛妾ではないでしょうか? 貴族、しかも男同士の結婚だなんて国王様がお許しにならないと思いますよ」


「待て待て待て」


 ようやく二人が何を言っているのか、理解出来てきた。


「結婚相手を探しているのは俺じゃない、とあるお嬢様だ」


 二人はまた驚いた顔をする。


 これ以上困惑が広まらないようにと、俺はなぜ結婚相手を探しているのを二人に説明していく。


 お店で、他の人も聞いている可能性があることから、名前や詳細は伏せて事情を話す。


「そういう事でしたか。良かった、シアさんはそういう嗜好の人なのかと思いましたよ」


「そんな事あるわけないでしょ」


 副長の言い方には含みがあり、本気なのか冗談なのかもわからない。


「あたしもあり得ない話でもないと思って聞いてましたが……つまり恩人であるお嬢様の為に、最良の男性を見つけたいという事だったのですね」


 俺はうんうんと頷いた。


 ……話が進まなくなるから前半は意図的に無視をする。


「心配になる気持ちもわかるけど、でもそれで本当に良いのでしょうか?」


 リジーの言葉に同意するように、副長も難しい表情をしている。


「リジーさんの言う通り、私達が良いと思っても、そのお嬢さんにとっては良くない、寧ろ余計なお世話と思われる可能性が高いですね」


「何で? 誰だって良い人とならば結婚したいと思うだろ?」


「結婚だけならそうかもしれませんが、シアさんが望むのはそうじゃありませんよね。貴族の結婚はあたし達平民とは違うでしょうけど、幸せになって欲しいならお嬢様が好きになりそうな人を探したほうがいいのでは? 与えられた人と結婚って、結局政略結婚と変わらないような気がします」


 確かにお嬢様が幸せになれるには、それが理想だ。


 リジーの言葉に納得する。


「何か話を聞いていると、そもそも全部シアさんの独りよがりなんですよね」


「ひ、独りよがり?」


 耳に痛い言葉を言われてしまう。


「そうです。そのお嬢様の言葉も聞かずに勝手な事をしちゃうし。本当に結婚相手が欲しいと思ってるかもわからないじゃないですか」


 ナイフのように心を抉られ、俺の呼吸は荒くなる。


「まずはもっと本音を話し合ってみたらどうです? その方がお嬢様の幸せに繋がりますよ」


 副長からもそう助言され、俺は息も絶え絶えに頷いた。


(情けない……そんな当たり前の事すら考えつかなかったなんて)


 俺は自分の能力を過信するあまり、実際の問題に疎くなっていた。


 同性であるリジーの言葉を素直に受け止め、悔いのないようにお嬢様とお話をしなくては。


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