第36話

 その後、キャスリーナ嬢からの連絡は無いし、今現在に至るまで消息も不明だ。

 ただ、王都近くの森やダンジョンで、女性の奇声を耳にしたという話が何件か届いてる。

 その現場に居合わせた目撃者(?)曰く、

「親友の恋のためなら、えんやこらー!!」

 とか叫んでいたとかなんとか…。

 そんな報告を聞いて『親友って…まさか??』と私が考えたのは無理もないよね??


 いったい、どこでなにをしているやら…

まあ、無事元気でいるみたいなのは、ちょっぴり安心したけども。


「殿下のこの状態をどうにか出来るのは、キャスリーナ嬢だけなんですね?」

 呆れた様子でため息をつきつつ、そう念を入れてくるミィナに、

「まあ、たぶんなんだけど…」

 彼女はこの世界の元になったゲームのヒロインだから、とはさすがに言えないので、私はかなり曖昧な返答をした。っていうかそのゲームですら未クリアなんだから、本当の所なんて私にわかる訳ないよね。


 そもそも神女の能力すら知らないし。

 

「待つしかないって辛いわね…」

「お嬢様……」

 私は飲み終わった紅茶をサイドテーブルに置いて、未だ目を開く気配もないリュオディス殿下を見詰めた。

 ホント、どうしてこんなに心配なのかしら。いや、いくら婚約破棄したいからって、子供の頃から一緒のいわば『幼馴染』が臥せってるんだから、心配してもおかしくは無いんだろうけど。でも、なんでだろう??私自身良く解らないけれど、どうもそれだけでは無いような……

「……………ん?」

 うーんと考え事に耽っていた私の耳に、ドアの向こうからなにかの音が微かに聞こえてきた。

「……なんでしょう?」

 ミィナも気付いたようで部屋のドアに視線を向ける。


 最初、ほんの小さな音だったそれは、空に響く遠雷のようにも思えた。

だが、そう思えていたのは一瞬のことで、その音は一秒ごとにこちらへ向かって近づいてくるのが解った。


「え?……え??…なになになに??」

 遠雷のようだった音の正体は、どうやら人の声で。しかも1人や2人のものではなかった。なんか、すくなくとも10数人はいそうなのだ。そしてそんな大勢の人はなにやら叫んだり、怒鳴ったりしながら、こちらへ向かってきているみたいで。


 何が何だかわからなくて、ちょっと怖いわよ??


「お嬢様、下がって!!」

「えっ、えっ!?」

 いよいよドアの前まで近づいてきた喧騒に、緊張をみなぎらせたミィナが素早く動いて私を背中側へ隠した。と、ほぼ同時に豪華な2枚開きのドアがバーンっと音を立てて開かれる。


 ──そして、そこから登場したのは…!!


「待たせたわね!!親友!!」

 1週間前と同じ服を砂や泥でボロボロにし、必死に追いすがる騎士団をものともせずに払いのける、なんかもはや無双状態のヒロイン、こと、キャスリーナ・グスタフ男爵令嬢であったのだった。

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