第30話
「どこまで行くんですの?」
「もう少し先ですわ」
教会の前で待機する殿下達を尻目に、キャスリーナさんは私を連れてどんどん湖の方へと近づいていく。
「まだですの?」
「もう少し……」
いったいどこまで…と思いつつ仕方なく着いて行くと、結局、湖が真下に見える崖っぷちまで連れて来られてしまった。
崖、近ッッ!!
てか、崖、高ッッ!!
ちょっと下まで何メートルあんの??私は幸い高所恐怖症ではないけれど、それでもこれはさすがに怖いな!?下を覗き込んだだけでひゅっとしちゃう。
「それで……お話って…」
果たし状…ならぬ、お手紙では『仲直りをしたい』とあったけども。そもそも私達の間に喧嘩するほど深い付き合いなんてあったかしら??などと首を傾げていると、キャスリーナさんはコホンとひとつ咳払いをしてから話し始めた。
「私、なんでか色々とうまくいかなくて不思議だったんだけど…ようやく分かりましたわ」
「何の話……」
「アウローラ様!!貴女、転生者でしょ!!」
「…………は?」
散々焦らして、ようやく口火を切ったかと思えば、いきなりそれ??
てか、てっきり私は『私の罪』とやらを無いこと無いことあげつらねて『寛大な心で貴女の罪を赦して差し上げますわ!!』とか、めっちゃ上から目線で話を仕掛けてくるのだとばかり思っていた。
「あの……?」
「誤魔化しても無駄ですわ!!貴女の魂胆なんて私には解っていますのよ!!」
いや、まだ何も言ってねえわ。つか、さっきも思ったけど、話させろ。
「良い男、財産、地位、名誉…この世界のありとあらゆる幸運は、ヒロインである私のためにあるんですのよ!!悪役令嬢に過ぎない貴女は、きちんとその役目をはたして、さっさと退場してくださらない!?」
はあ??
出来ることならさっさと退場してるわ。
婚約破棄して貰いたいのは、こっちなんですけどね。
ああ……夢の年金生活に入りたい…!!
「あのね………」
「殿下をどうやってたぶらかしたのかは、解りませんけども!!きっと姑息な手段を駆使したんでしょうね!?でも、残~念!!悪役令嬢がどう頑張ったって、最後にこの国の国母となるのは神女の私なんですからね!!」
だから私にも話させろ。
人が話そうと口を開けたら、計ったように遮るから、私は何も口出せずにイライラし始めた。
「つまり…」
「悔しいのは解りましてよ!?あんな素敵な婚約者を奪われるんですから、そのお気持ちは痛いほど良~く解ります!!けれどこれは、決められたシナリオなのです!!潔く諦めてくださいませ!!」
「ちょっとは私にも話しさせなさい!!」
三度遮られて、さすがに『もう限界』とばかりに私が声を荒げて言うと、キャスリーナさんはビックリしたように大きな目を点にして押し黙った。私が怒鳴るとは思ってなかったみたいで、驚きのあまり硬直しちゃったみたいね。よしよし。今の内だわ。
「つまりキャスリーナさんは、転生者である…という訳なのね?」
まあ、何となくそんな気がしなくもなかったけど──と、一応、確認のために改めてそう尋ねると、ハッと我に返ったキャスリーナさんが胸を張ってどやる。
「そうよ!!!!私はこのゲームを、隅から隅までコンプリートしてるんだから!!!!!!」
うわあ。まさかのクソゲー完クリ猛者来た!!!!
「そ……そう。それは凄いわね…」
キャスリーナさんの誇らしげな告白と宣言に、私は皮肉でなく素直に感心してしまう。ていうか、良くあの地獄のテキストとシナリオに耐えられたわね??精神鋼か何かで出来てんのかしら。冗談でもなんでもなくて、本当に凄いわ。
でもきっと、彼女からしたら、そんなことどうでも良いんだわ。
だって、言葉や態度の隅々に、『好き』の気配が出てるもの。
完全コンプリートするくらい、このゲームが好きなんだわ。
尊敬とほっこりした気持ちをもって彼女を見詰めていると、何故だか、キャスリーナさんは怒りのこもった目で私を睨み返してきた。んん??私、なんか怒らせるようなことしちゃったかしら??
「おためごかしはよして頂戴!!どうせ、貴女、心では私のこと馬鹿にしてるんでしょう!?」
「………へっ??」
ギッと凄い目で私を睨み付けてきたキャスリーナさんは、どこか傷付いたような様子で私に非難の声補浴びせかけてきた。いや、そんなつもりはなかったんだけど…と、否定しかける私を置いてけぼりに、キャスリーナさんは秘めていた心の内を吐露し始めたのだった。
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