第15話

「アウローラ様は、リュオディス殿下のこと、どう思っておいでですの?」

「………どう……って…」

 ある日のお昼時間。昼食をご一緒していた令嬢が、急にそんなことを聞いてきた。

「あ…いえ、その…こんなことを申しては失礼かとは思ったのですけど…」

 聞きにくそうに口籠る彼女は、エアリアル・ラテ・リッティベア侯爵令嬢だ。私の一番の親友…というか、実は唯一の幼馴染でもある。


 彼女との出会いは5歳の誕生パーティーだった。彼女の父リッティベア侯爵と私の父は昔からの親友で、互いの子供を引き合わせる場としてパーティーへ参加してくれた。


 娘らにも親友を作ってやりたい。


 そんな思いがあって、父らは私達を引き合わせた、らしい。

 だと言うのに私達の初対面時の印象は最悪で。

 何が原因とまでは覚えていないが、私とエアリアル…ことエアは、その場で大喧嘩してしまったのだ。そして2人して父に怒られて大泣きした。


 しかし、結果として、それが良かったらしい。


 私達は父らに怒られて泣いたことで、相手にも共感を覚えてしまったのだ。

 そんな出来事のおかげというか、今では悪口だって言い合える仲になった。もちろん、学園内では貴族令嬢らしくお澄ましして、一見、よそよそしいくらい言動には気を付けているけども。


 そんな彼女が、普段は話さないようなネタを、公共の場で持ち出してきた。

 たぶん、きっと、なにか裏がある。

「あまりお好きではないような気がしたものですから…」

 おおう。ズバッと切り込んで来たわね。ほんと、どうしたエア。申し訳なさそうな顔を作ってる割に、なんか目がキラキラして楽しそうだぞ。ついでに、普段は被ってる猫が20匹ほどいなくなってる。

「そんなことは……というか、私、長髪の殿方苦手で」

 しかし、それならばそれで、と私も話に乗ってやった。どうせここには友人しかいないし。しかも皆、周りに言いふらすような、はしたない真似など出来ない、生粋の『お嬢様』ばかりだ。まかり間違っても殿下に伝わることは無いだろう。いや、この際、伝わっても良いけど。

「リュオディス殿下も、お小さい頃は髪が短くて可愛らしかったのですけど、今は私よりも髪が長いでしょう??」

 殿下は美形だし性格は良いしお金持ちだし…で、ホント、前世世界でも超が付く優良物件なんだけど、人間にはどうしても受け付けられないものがあるのだ。


 それが私にとっての、金髪長髪男だった。


 せめて黒髪だったらなぁ…と内心でため息をつくと、

「わかりますわ!!そのお気持ち!!」

「私も!!私もそのお気持ち、良く解ります!!」

「……………え?」

 こんな贅沢と我儘、呆れられるかしら?と思ってたのに、なんかめっちゃ食い付き気味に同意された。しかも、私に阿るような様子でなく、心からの同意と言った様子で。もしもし??どうした、友人たち??

「私もこの際、正直に申しますけど、この国の……特に、見目のよろしい男性って、何故だか長髪の方が多くありませんこと??」

 最初に食いついてきた令嬢、マリエッタ・ファロー伯爵令嬢が指摘すると、アルテミア・キルティング伯爵令嬢も『それよ!!』とばかりに彼女に続いた。

「そうなんですの!!特に殿下の周囲にいらっしゃる殿方に多くて、というか、短髪でいらっしゃるのって、レイドール様くらいなものではないかしら??」

「そうなのよ!!……だから私、彼のことが気になっていたのに……あまりにも頭がお花畑でいらっしゃったから…!!」

 はあ…と、深いため息をついて、エアリアルが遠い目をした。

 ああ…数日前のイベント…もとい、ヒロイン登場の騒動のことね。うん。そうだね。アレはきつかったよね。長年の憧れが粉々になったもんね。と、同情心を湛えた目で親友を見る。

「ですからね…頭の中はどうにもできないけど、見た目はどうにでもなりますのよ。アウローラ様?」

「そ……それはそうですけども…」

 ああ、なるほど。それが言いたかったのか。

 私の視線に気付いたエアリアルが、贅沢言う暇があるなら行動しろ、と暗に告げていた。つまり、気にくわないなら『髪を切るか結べ』と本人に言えと。いや、まあ、そりゃそうなんだけど。なかなか王族相手に言えないでしょ??

「殿下はアウローラ様のおっしゃることなら、きっと受け入れてくれると思いますわ」

 エアリアルが諭すように静かに言うと、他の2人の令嬢も我も我もと続いた。

「そうですよ!!だって殿下は、アウローラ様のこと、本当に大切になさっていらっしゃいますもの!」

「きっと、アウローラ様の好みに合わせてくると思いますわ!!」


 えっ、そうなの??

 いや、そうなのかも??

 そう……だったら、良いけどなぁ。


 学園で過ごす優雅な午後。

 何故だか友人らから猛アタックされて、ちょっと試しに言ってみるか??という気になった私だった。

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