Episode 083 朝まで待てずに、夜明けの前に。


 ――粛正。或いは粛清を意味するかもしれない。金色の糸が排除を意味するのなら。



 お姉ちゃんが、私を排除する。……心に冷たいものを感じた。凍えるような冷たさ。お姉ちゃんの目は、まさにそれ。ジリジリと近づいてくる。ジワリと、私の目に涙が溢れるのを感じる。でも、お姉ちゃんは、あくまで松近まつちかさんの命令に従っているだけで……


 スーッと、目を閉じる。


「……いいよ」と、囁くような声だったと思う。それでも、お姉ちゃんの迷いを解くために……迷いはないのかもしれないけど、私には覚悟の声。懸命な声だった。どうなるかはわからないけど、とあるスパイアニメのように、胴体真っ二つにされるような死を与えられるのだろうか? その金色の糸で首を絞められるのだろうか? 恐怖は襲うの……



 ――待って!


 静寂に響くその声に、思わず目を開けた。すると背中、後ろ姿。


 お姉ちゃんと私の間、遮るように割って入っていた、戸中となかさん。


卜部うらべさんは私の心を理解して、銀行強盗を阻止してくれました。それってミッションクリアなんでしょ? ……それに、罰を受けるのは、私の方……私は卜部さんを、そらさんを利用してた。それだけじゃない、私が松近君に近付きたいがために、ドミノを利用したのです」と、涙声。私を庇っている。お姉ちゃんの手元は緩んで困惑な表情を見せ……


「粛清はナシだ、空君。たった今、君はミッションをクリアした」

 と、松近さんの声が響く。


 授業終了を告げるウエストミンスターの鐘と同じ効果を齎しながら。


 お姉ちゃんの表情に安堵の色。そして「ありがと」と一言、戸中さんに向けられた言葉だと思う。一気に緊張が解けた影響なのか、両脚の力が抜けヘナヘナとへたり込んだ。


 松近さんはクスッと笑いながら、


「ご苦労、初ミッション。これからも頼むぞ」との一言を、さり気なく添えた。



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