第十二章 第二部スタート。

Episode 056 嵐の夜が明けたなら。


 ――お姉ちゃんを先頭に、私と陸君りっくんは辿り着く。


 梅田から最寄りの駅までの旅路も含め、一年ぶりの我が家へ、卜部うらべ家に。



 パパ、ママと、涙の再会……の筈だったけど、その第一声はというと「あらあら、かいにしては珍しくお友達連れ?」だったの。陸君は女装のままでもポーカーフェイスを保っているけど、私はムスッとなって「ちょっとちょっと、訳ありで変装してるけど、あんたたちの娘の顔わからないの? お姉ちゃんは一発でわかったよ」と、言い放つ……


 するとパパは「そら、空なのか?」と、言葉にならない様子。続けてママは


「まあ、随分と垢抜けたねえ、それにハキハキと喋るようになったし」と、感想を述べる……


 そんなこんなで、いつしか溶け込む。


 一年ぶりとも思わせない、つい昨日の続きのような感覚。そして陸君のことも、あっさりと受け入れていた。パパもママもお姉ちゃんも何の違和感もなく、すでに家族。


 女装を解く陸君。私は、お姉ちゃんと二人きりの……浴室。帰宅から、そんなに時間が経っていないのに、お姉ちゃんが「一緒に入ろ、空」と誘ってきたから。以前は、そんなこともなく珍しい。それにしても、それにしてもだよ、違うの、私と、その……


「胸、大きいね」と、やっと声にした。それだけじゃないけど、スタイルまでも、とても今目の前に、その裸体が近くにあって、それでいてクスッと笑うお姉ちゃんは「空も、引き締まって素敵ね。お肌も綺麗だし」と、息が漏れそうな場所を、そっと触った。


 ……変な声出た? そう思う余裕もなく頭の中は真っ白で……


「空、きっと明日の朝には解決してるから」と、お姉ちゃんは囁く耳元で。ボーッとした頭の中で浮かぶ思考の数々も、処理には及ばす、その言葉は謎を残し時は過ぎる。


 スヤスヤと眠りに誘われ……


 陸君も女装から解放され……共に目覚めたら、翌日の朝、八時半のニュースだ。


 警察に確保された窃盗犯……あの窃盗犯だ、写真も表示されていた。何しろ梅田の繁華街で倒れていたと言われている。そこに落ちていたのは、金色の切れた糸だった。



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