Episode 035 受け継がれるバイオリン。


 ――椎名しいなのオジサンから、陸君りっくんがバイオリンを受け継いだ。証人もここにいる。



 虹が掛かる程、雨降って地固まる晴れ渡る空の下。そこに集う面々たち。私も、春日はるかさんも、お爺ちゃんにお婆ちゃんも、椎名のオジサンから正式に告げられる場面を。


 ……でも、一つ問題が。つい口にしてしまうの。余計な一言と承知の上で……


「陸君、バイオリン弾けたっけ?」


「ウグッ、やっぱりその展開か?」


 案の定だ。ヒーローにはなれても、まだバイオリン・ヒーローとしては未完成。そして椎名のオジサンは、笑みを浮かべながら「心配ないからね。弾けても難しいから。そのバイオリンは独特だから、俺しか教えられないよ。それも込みの後継だからな……」


「じゃあ、私も手伝うよ。しっかりと、そらちゃんの元へ送り出せるようにと、我が弟に餞別だよね。パパの場合は、我が息子にだけど」と、春日さんも力を貸してくれる。


「じゃあ、明日からだ。

 スクール終わったら、空と一緒に俺の部屋へ来い。社宅の三〇三号室。そこから俺の行きつけの公園で稽古だ。バイオリンも一日してならずだけど、必ず俺が弾けるようにしてやる。お前が空と旅立つ日には、できるように仕立ててやるからな」


 燃ゆる決意。きっと、この時にわかったの。陸君と親子の時間を、椎名のオジサンは作りたかったのだと思う。グッと胸が熱くなる。私は、私はね……


「空ちゃんも一緒。春日お姉ちゃんからの特別授業があるから。何しろママ直伝の技を伝授してあげるから」と、春日さんが言うものだから「それって、おもてなし?」と、訊いてみるとね、……クスッと、春日さんは笑いながら、


「いいねいいね、半分は正解かな? これから先、陸と力を合わせて戦う時に必要な、おもてなし……のような春日お姉ちゃんの戦術。きっと空ちゃんの力になると思うから」


 と、言い放った。まるで、封印を解き放つように。


 時はもう梅雨も明けた頃。出発の日は刻一刻と近づいていた。カウントダウンの域へ。



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