『恋のショコラティエ』

頑強文熊

第1話 運命のショコラ

葵はいつも通り、明るい笑顔で「ラ・プティ・ドゥース」のカウンターに立っていました。店内は甘いチョコレートの香りに包まれ、お客様たちが楽しそうにショコラを選んでいました。


「葵ちゃん、今日の新作チョコ、見せてくれる?」同僚の美咲が楽しそうに尋ねてきます。


「もちろん!」葵は得意げに小さな箱を開けて、美しいチョコレートのアートを披露します。美咲と共に笑顔で試食をし、お客様にもプレゼンテーションを行う葵の姿は、まさにショコラの妖精そのものでした。


すると、その時店内の雰囲気が一変します。葵は何かの気配を感じました。彼女は振り返ると、謎の黒髪の男性が入店してきたことに気づきました。


その男性は上品な佇まいで、落ち着いた雰囲気を纏っていました。彼が葵を見つめる瞳は冷たいようで、しかし同時に何かを求めるような熱を秘めているようでもありました。


美咲は葵が見つめる先を見て、興味津々の表情を浮かべました。「新たなお客さんかしら?」


葵は自然に笑顔を浮かべ、男性に向かって歩いていきます。「いらっしゃいませ!ラ・プティ・ドゥースへようこそ。」


男性は微かに頷いて言葉を交わします。「お世話になります。」


葵は彼にお勧めのチョコレートを紹介し始めましたが、男性は冷静な態度を崩しません。しかし、葵が一番自信を持って提案したチョコレートを試食すると、彼の表情に微かな変化が現れました。


「これは…美味しい。」男性が口にした一口目で、彼の目が輝いているように見えました。


葵は嬉しそうに微笑みながら、「それなら、ぜひお持ち帰りいただけますか?」


男性は深く考えた後、頷いて応じます。「分かりました。それを一つください。」


葵は彼にお会計を済ませると、丁寧に包装したチョコレートを手渡します。「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています。」


男性は礼儀正しく頷き、店を後にします。葵は彼の後ろ姿を見送りながら、なぜか胸の奥に謎めいた気持ちが湧いてくるのを感じました。


「葵ちゃん、あの人、なんだか気になる?」美咲が興味津々に訊ねてきます。


「そうね…なんだか不思議な感じだったわ。」葵は微笑みながら答えました。


彼女はこの謎めいた男性との出会いが、彼女の人生に大きな変化をもたらすことを知る由もありませんでした。それは、まるで運命のように訪れた出会いだったのです。

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