第6話 私は見つめる まわりの灰色の墓石たちが

                     エミリー・ブロンテ作

                          額田河合訳

私は見つめる 私のまわりの灰色の墓石たちが

長い影をはるか違くに投げかけているのを.

私の足が踏みしめるこの芝生の下には

深く 孤独に もの言わぬ死者が横たわっている

芝生の下に 黒土の下に――

果てしない闇の中 永遠に冷たく

私の目からはとめどもなく涙が流れおちる

消え去った日々の思い出があふれさせる涙

時と死とそして生きる苦しみがつけた傷は

もう二度と癒えることはない

思い起こせ たった半分でいい

この地上で目にし 耳にし 味わった悲哀を

そうすれば 天そのものがどんなに純粋で幸福であっても

私の魂に安らぎを与えることなどもはや決してありえない

甘き光の国よ! おまえのうるわしき子どもたちは

私たちの絶望に似たものを何一つ知らない

感じ取ることも、思うことさえできない

ひたすらに死へと急ぐ私たち人間の胸に何が巣くっているか

どんな陰鬱な客を私たちが内にかかえているかを

その名は苦悩と狂気、そして涙と罪なのだ!

それでいい 願わくば彼らが至福のうちに

永遠とわに続く喜びのうちに生きんことを

ほんの少しも思わない 彼らを地上に引きずり降ろし

ともに泣かせようとは ともに苦しませようとは

そう――私たちの大地は他の天球にまで

こんな荒涼とした苦しみの杯を味あわせようとは思わない

大地はもはや憂いなきまなざしで天を仰ぎはしない

私たち人間の死すべき運命をただひたすらに嘆く!

ああ 母なる大地よ この果てしない惨めさの中で

何をもってあなたをなぐさめたらいいのか?

私たちの満たされぬ瞳をしばし喜ばせようと

あなたが微笑むのを見る 何とやさしい微笑み

だが そのやさしい輝きの中にあなたの深く

言いようもない嘆きを読み取らぬものがあろうか?

何があろうとも 光り輝く天上の国は

あなたの子どもたちの愛をあなたから奪うことはできない

私たちの誰も 人生の輝きの消えゆく中で

最後の心からの望みはあなたの望みと溶けあう

そして なおも もがきながら かすみつつある眼で

あなたのいとしいかんばせを追い求めるだろう.

私たちは生まれた大地を決して去りはしない

墓にまさるどんな世界も求めはしない。

断じて――それよりあなたのやさしい胸の上で

永遠とわの休息の中に眠らせて下さい

さもなくば、目覚めさせてください、そして

あなたと共に不滅の命を生きさせて下さい。

(A19. July 17,1841)

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