第十二部

 翌朝。


「お師匠様、今日の修行は?」


「今日の修行はなしだ。貴様ならどんな修行もこなそう。半端な修行は意味をなさない」


「え、じゃあ何すんの?」


「王都に出てみようと思う」


「えー、また王都に行くのかよ……」


「何を言う、今日は一人ではないぞ。我も同行する」


「お、やっと引きこもりをやめるつもりになったのか」


「……うるさい。そろそろ我自ら動き出さねばなるまい。王都と戦争する日も遠くなかろう。言っておくが、我は断じて引きこもりではない。行くぞ、ナナシよ」


「はいはい」


 昨日と同じく馬車に乗り込み、屋敷を出発する。


 久しぶりに屋敷を出るせいか、ソルシエルはそわそわして落ち着かないようだった。


「よいか、決して我らが魔女と悟られてはならぬ。我らは姉妹で異国から観光に来たという設定にしておこう」


「わかってる。でも、そんないかにも魔女ですって感じの帽子かぶってたらすぐバレちゃうんじゃ?」


「ふむ、それならこうしよう」


 ソルシエルが帽子を脱ぐと、それは一瞬にして髪留めへと変身した。


 黒髪を結い上げたら魔女としての威厳が和らぎ、人間らしく淑女らしく若返ったような気がする。

 悠久の時を生きようとも変わらない、魔女の神秘――そして、変わることのない人間の本質が感じられた。


 しばらくして、馬車は王都で歩みを止めた。


「さて、手始めに市場から見て回るか」


「やめといた方がいいぜ……」

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