第7話 潜入劇と2大組織と

「それにしてもー、2人は付き合っているの?」

 濡羽ぬればがあっさり尋ねた。


「2人とは?」

 動揺した茉仁荼まにとがたずねる。


「ん?魅空みあさまと貴方」


 透螺とうらが真っ赤になってぷるぷると震えている。少し疑問に思ってから、腑に落ちる。あぁ、茉仁荼が好きなのね、と。


「魅空さま、魅空さま。透螺さんは茉仁荼が好きらしいです!」


 一瞬、目を見開いて

「彼女、もとはロンペルにいたからね」

 納得したように言う。どうしよう、と悩んだのち放置することにした。


「で、抗争派なのは誰なの?」


「最近幹部になった女で、楼花ロウファって名前の人物だね」


 ロンペルは四神獣ししんじゅう、中国を中心に伝わる神獣を幹部の呼称に使っている。玄武、白虎、青龍、朱雀。今回、楼花という女性が朱雀の位についたのだという。


「待って、その女はウルフヘアで毛先を赤に染めて八重桜の瞳と洗朱あらいしゅの瞳孔をしてたりする?」

 何かを思い出したらしく少女が問う。


「うん、多分そんな感じだけど」


「1本裏の通りに花街があるでしょ?そこの大店妓楼おおだなぎろう火灼ノ姫かしゃくのひめって人気の妓女ぎじょがいるの。その人、楼花って言うらしい」


 思ってもみないような場所に、彼女がいる。全員が言葉を失っていた。しばらくして茉仁荼が口を開く。


「年季も明けない妓女がなんでロンペルうちにいるんでしょう」


「あの花街の裏にいるのは人身売買続行派の政府の人間がいる。年季を短くするかわりにスパイでもさせてるんじゃないかな」


 そこでニヤリと笑って━━━

「じゃあ、とりあえず妓女になってくるわ」


 誰も、想像すらしなかった少女の潜入劇の開幕であった。


「今日からしばらくお世話になります。名前はございませんが澪綾レイリンと呼んでいただければ幸いです」


 10になるまで令嬢として育てられていたが、経営していた会社の倒産により多大なる借金を背負った家族のため、身売りを決めた、という設定だ。


 この大店おおだな妓楼には対になる2人の姫━━高級妓女がいる。一人目は火灼ノ姫かしゃくのひめこと楼花ロウファ。二人目は今、少女に穏やかな微笑みを浮かべる女性━━静藍ジンラン透水ノ姫とうすいのひめと呼ばれる優しい人物だ。


「澪綾、というのね。なにか特技はあるかしら」


「詩歌は得意です。あと、将棋も少しうてます」


「おめでとう、澪綾は中級妓女からよ。頑張って上まで来てね」


 これが彼女とした最初の会話だった……。


 ━━2ヶ月後。少女は凍氷ノ姫とうひょうのひめと呼ばれる高級妓女へと昇格していた。なにより幅広い知識と賢さ、品の良さに加えて凍てつくような眼差しが彼女の売りとなったようである。静藍は落ち着いた優しさのあるひとだった。黒髪に菖蒲の瞳、といたって平凡な色彩。そこに彼女の柔らかさ、美しさが合わさっている。なんといっても売りは癒しと母性。静藍もまた身体ではなく芸を売る妓女だ。


 一方楼花はかなり激しい気性の人物だ。ときには禿にも当たるので、距離を置かれがち。赤メッシュの黒髪のウルフヘア、八重桜の瞳と洗朱あらいしゅの瞳孔の美貌。彼女は身を売る妓女だった。本人も仕事のあとは機嫌がいいので好都合だが。


 澪綾━━濡羽は楽しむばかりでまるで緊張感など持たないのであった。


 現在公開可能なキャラクター情報


 楼花ロウファ

 ロンペルで最近朱雀の位になったという女性。ウルフヘアの毛先を赤に染めて八重桜の瞳と洗朱あらいしゅの瞳孔を持つ。大店妓楼で火灼ノ姫かしゃくのひめと呼ばれる、人気妓女。

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