幼馴染が知らない間にヤンデレになっていた

広野ともき

第1話「幼馴染とのプロローグ」

 小学校のころ。俺には幼稚園からの付き合いの仲の良い幼馴染の女の子がいた。その子とは放課後に一緒に遊んだり、ゲームをしたり、夏休みに探検めいたことをしたりした、大切な友達だった。


 でも別れというのは唐突にやってくる。小学校卒業とともにその子が東京に引っ越してしまったからだ。


 その時の寂しさというのは物凄いものだった。ずっと仲の良い女の子、淡い恋心を向けていた女の子がいなくなった寂寥を想像してもらいたい。


 でも時間が経つにつれてその時の恋心というのは薄れていって、次第にその子との思い出というのも頭の片隅に消えていく。


 もう彼女のことを思い出すこともないだろうなと思って過ごした高校時代も終わり、今日からは大学生。新しい日々がスタートする。入学式を終えて、親とも別れて、同じ大学に進学した高校時代の友達と連絡アプリを使って合流しようとしていた。


 それにしても人が多い。今中庭のあたりにいるのだが人がごった返している。進んでも進んでも人がいる。


 とりあえずここで待ってると、目の前にある燐風館りんぷうかんという建物を写真に撮り友達に送信した。するとすぐに既読がついて了解とスタンプが返ってきた。


「もしかして和彦?」


「……」


 呼びかけられて振り向くとそこには凛とした顔立ちに肩まで伸びた髪にスーツを着こなす女性。


「由美佳か」


「和彦!久しぶり!」


 もう思い出すこともない、もう会うこともないと思っていた。なんで。なんで。


 由美佳はとてもうれしそうに俺の手を握る。


「ホント、久しぶりだね。小学校卒業以来かな」


「そうだな。急に引っ越していって、お別れもままならなかったもんな」


「そうだね。私も寂しかったんだよ。急に和彦とお別れしちゃって」


 当時の思い出が鮮明に思い出される。本当に急な話で引っ越すといわれたのは引っ越す前日。小学6年ごろの多感な年ごろで、ちゃんとした気持ちを素直に言えなかったのを思い出した。ちょっと恥ずかしい。


「とりあえずLINE交換しよ。和彦と再会できてたくさんしゃべりたいことあるけど、私今から用事あるから。お互い落ち着いたらどっかごはんでもいこ」


 パパっとLINEを交換する。プロフは楽しそうにカメラに向かってピースをしている由美佳だった。高校時代に撮った写真だろうか。制服姿だった。


「それじゃ、絶対、ごはんいこうね!」


 そう残して由美佳は人混みの中に消えていった。


「お待たせ。いやぁ人がスゴイね。やっぱ総合大学なだけあるよ」


「そうだな」


 待ち合わせしていた友達、麗奈がやってきた。彼女も当然、スーツ姿である。


「あれ?和彦ちょっと顔赤いよ?」


 指摘されて初めて顔に熱を持っていたことに気が付いた。


「ちょっと日焼けしただけ。大丈夫」


「そっか。なら行こう。今から学部の入学後説明会がビックホールってとこであるんだって」


 もう思い出すことはないと思っていた。


 だけど会った瞬間に思い出してしまった。


 どれだけ時間が経っても忘れることがないらしい。


 春は晴天。雲一つなかった。

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